こころもからだも

部屋に戻るとレックスが着替えていて。外に出ていたらしく、防寒着を脱いでたたんでいるところだった。
前は結構ぽいぽいと投げていたのだけれど、わたしも同じようにぽいぽい投げていたら、何故だかあいつの方が服を綺麗にたたむようになってしまっていた。
でも、それはあいつだけじゃない。
わたしは、あいつが実は読書なんてものをすることを知って、ちょっとだけ本を読もうかな、なんてことを思ったりもして。
慣れないけれど、書物を開いてみたり。
わたしはあいつを変えたのだろうし、あいつはわたしを変えた。
ともに眠ることを覚えたわたしたちは、お互いにそれを覚えこませてしまったお互いから離れることは難しい。
馬鹿馬鹿しいと思っていたことをついやってしまったり。
そんなことを思いながら、わたしも少し離れたところで着替えた。
わたしの中で息づいた命を知ったのは、おとといのことだった。
このままでは埒があかない。討伐部隊がグランベルから派遣されるらしい。その話をシグルド公子を中心にして話して。それから部屋に帰ろうとしたときに気持ちが悪くなった。最近何度かそういうことがあった。間違いない。
ああ、来るべきときがきたのか。
不思議とわたしはすんなりとそれを受け入れることが出来て。
すぐに翌日医者に見てもらった。懐妊している、と言われた。
嬉しい、とか嬉しくないとか、そういう感情ではなくて。
ラケシスは愛しくない、といっていた。エーディンは知ったそのときから嬉しかったと言っていた。
わたしは。
レックスに聞かなければ。それだけをぐるぐる考えていた。
わたしは、お前の子供を、産んでもいいのだろうか・・・?

心臓がとまりそうだった。
アイラは何も言わずに着替えている。きっと、それから俺に話をふるに違いない。
もしかして、とそっと俺に耳打ちしたのはジャムカだ。実は数日前から思っていたのだが、なんてことをいいやがる。
なんで毎日一緒にいる俺が気づかないのにジャムカが気づくんだ、と驚いた。
でも。
そんなのは当たり前かもしれない。ジャムカだってエーディンが身ごもったことを気づかなかったのだと言っていた。でも、今なら、わかる、と。昨日、エーディンと一緒にこの城おかかえの医師のところにいったら、アイラが出てきたところだったと行っていた。
俺は緊張して、うまくボタンをはずせない。こういう日に限って、ボタンが多いシャツの上にボタンが多いベストなんて着ていやがる。あとからはいってきたアイラがさっさと着替えたのに、俺はもたもたしてすげえ、格好悪い。
格好悪い俺は、嫌いだ。嫌いだけど、俺はこの女のためならいくらでも格好悪くなってしまう自分を知っている。
そして、そんな自分は、嫌いじゃなかったりするから始末に負えない。
あ。
着替えをなかなか終わらない俺をじっとアイラは見ている。
尚更俺はあせって、うまく服を脱げない。なんで、こんなに俺はあせってるんだ?
「レックスどうした」
アイラはさっさと寝間着に着替えてベッドに腰掛けていた。
おいおい、子供が出来た、とかいう割に何も変わらないんだな。
「なんか、うまく、服が脱げないんだ」
「なんで」
「内緒」
「・・・変なやつ」
抱いた初めての夜からずっと考えていた。
いつかこいつは俺の子供を身ごもるのかもしれない。俺は、それでいいと思っていたし、子供なんて欲しいと思ったことは今までなかったけど・・・アイラを抱いた結果で子供が出来るなら、それは嫌とは思えなかった。
問題はアイラ自身の方で。
この女は、子供を欲しい、なんて実のところ思ってはいなかったんじゃないか?
今更ながら考えると、そんな話はひとっこともしてなかった。
俺はバカみたいにアイラを抱きたかったし、あいつはバカみたいに拒んでたし(最初はもっともっとバカみたいにOKだしそうだったけど)人間だから、やれば出来ちまう。それは別に嫌じゃなかったし・・・なんだか、こう恥ずかしいけれど・・・嬉しい・・・気もする。
でも。こいつはどうなんだ?
「レックス、着替えてるままでいいから聞け」
「ん?」
「子供が出来た」
オレの手はとまってしまう。
あんまりにもあっさり、どうでもいい会話のように簡単にアイラはいってのけた。
俺のこのあせりだとか懸念とか、そんなことはどうでもいい、と言わんばかりだ。
「・・・・お前、そういうことはきちんと話したいからさあ・・・待っててくれ」
「驚かないのか」
「驚いた。驚いたけど・・・昨日、それっぽい話はジャムカに聞いてて覚悟は出来てたんだ。ちょっと待て」
「待てない。お前はトロくさい。服ならわたしが脱がせてやる」
そういってアイラはベッドから立ち上がって。

「何故ジャムカが」
「・・・なんとなくかぎつけてたらしい。で、昨日エーディンと一緒に医師のところにいったらお前が出てきた、とかで」
「そうか。・・・お前と私の子供が、出来た」
わたしはレックスがまだはずし終わらなかったレックスのシャツのボタンをはずす。
上から三つ目までしかはずしていない。それは放っておいて、先に袖口のボタンをはずした。
この男は手が大きいから、必ず袖口のボタンをはずさないと手がつっかえてしまいそうになる。案外と丁寧なところがあって、着た時にはいちいちボタンを自分でとめているのを私はよく知っていた。
「アイラ、お前もトロくさいな」
「ん?ボタンをはずすなんてあまりないからな。面倒な服は着ない」
「これは普通だっ!」
「そうか」
と、突然レックスはわたしを抱きしめる。
「レックス?」
「その・・・子供・・・出来たから・・・・なんだ。その」
「?」
「ありがとう・・・っていうのかな?なんていったらいいかわからない」
抱きしめてくれるレックスは力をいれないで、わたしの上半身までだけを腕の中に包み込む。いつもと違うからわかる。もう、こいつはわたしの腹部を気にかけてくれている。わたしは目を閉じて、レックスに少しもたれかかって聞いた。
「いいのか」
「何が」
「お前の子供を、わたしが産んで」
「当たり前だ。・・・覚悟もなく抱くほど、もう子供じゃない」
「そうか」
「お前はどうなんだ」
「私?・・・どれだけの覚悟があったか、お前は知っているはずだろう」
「・・・ああ、それで十分だ。いいんだな?俺の子供を産んでくれるんだな?」
レックスはそういうと、そうっと私に口付けた。
慣れたはずのその感触が、なんだか新鮮な気がする。
「産んでいいのか、レックス」
力強い声がレックスの体の中で共鳴して発される。とても耳になれた、好きな声だ。
「当たり前だ。明日、シグルド公子のところにいこう」
「この時期にすまない」
「お前だけの責任じゃない。それに、産まれる命は、いつ授かろうと歓迎されるものだろう」
こういうときのレックスの声音は優しくて、わたしは嬉しくなる。それをこいつは知っているのだろうか?
「ああ。そうだと思う。そうだと思いたい」
「アイラ、好きだ」
「わたしも」
「好きだ」
「わたしもだ、レックス」
「そうじゃない」
レックスは私の髪に手をさしいれ、ちょっと強くひっぱった。レックスが言いたいことはもうわかる。私は苦笑して言った。
「好きだ。レックス」

アイラは俺の腕からかるく離れて、俺のシャツのボタンを外した。
「もういいって。外れただろ」
ボタンを全部外したくせに、アイラはまだ俺のシャツを握っている。一体この女は今、何をどうしようとしているのだろうか?
「・・・おい、アイラっ!!?」
「うるさい」
シャツの前をはだけると、アイラは俺の体を舐めた。
わ。
ちょっとぞくぞくして、俺は驚いて体を引こうとしてしまう。それもちょっと男の意地で、ぐっと踏みとどまったけれど。
「バッ・・・」
「・・・ん?何固まってるんだ。別に初めてのことでもなかろうに」
「・・・何するんだよ、お前はっ、急に」
アイラはケロッとした顔で答える。
「お前のことが愛しくなって」
「・・・ばーかやろーっ!!好きだ好きだって俺がいっても言葉にしないくせに、なんで急にそんなことしたり言ったりするんだっ!」
「嫌か?」
「・・・嫌じゃない。嫌じゃないけど・・・誘うな・・・」
「誘う?」
「子供身ごもってる女と出来ないだろ。出来ないのに誘うな」
「ああ」
アイラは全然気も止めないで俺のシャツを脱がせる。肩からシャツがおちて、肘のあたりでとまる。俺はものすごく恥ずかしくなってきたけれど、アイラはまったく気にもしないで言葉を続けた。
「この体が、わたしを愛してくれて・・・そして子供が出来たのだと思ったら、また愛しくなった」
「嬉しい。嬉しいけどなあ・・・」
俺は苦笑する。
アイラもふふっと笑みをもらした。愛しさがこらえきれなくなって俺はまたアイラを抱きしめる。
ああ、どうして気づかなかったんだろう?確かにこいつの体はわずかだけれど丸みを帯びてきていたじゃないか。腕の中の感触が違うことを意識したのは、はずかしいことだがこれが初めてだった。
わからなくなるくらい、いつだって、慣れたってアイラを抱きしめることは俺を舞い上がらせてしまっていたんだ。・・・絶対、死んでも、そんなことは言わないけど。
腕の中でアイラは
「わたしはとても変わった」
「ああ」
「お前もかわった」
「そうだな」
「今度は、お前はわたしを母親というものにしてくれるんだな」
「お前は俺を父親にする気なんだろう?」
当たり前のことだけど、アイラの口からそんな言葉が出ると、とてもおもしろく聞こえる。
「ま、それは俺たちだけのことじゃなくて・・・腹ん中の子供が、俺たちを親にしてくれるんだろうさ」
「気障だな」
「何でお前、自分だけ違うフリするんだよ」
俺は何度も何度もアイラの髪を梳いた。綺麗な髪。俺とアイラの子供なら、髪はアイラからもらうと
いいと思う。俺の血は、そんなにいらない。こいつに似るといい。そんなことを思ってしまうほど、俺はこいつにイカれてしまってるのだろう。俺は意地悪そうに言ってみる。
「お前の方が恥ずかしいことを言ってるのに。ん?」
そういってアイラを見ると、こいつはこいつで少し恥ずかしそうに笑って俺をみあげた。
「そうかもしれない。でも、それはお前の責任だ」
「はいはい、お姫さま」

シレジアの夜はとても静かで、お互いの鼓動が聞こえるようにすら思えた。
授かった新しい命の鼓動さえも。
そして、二人はもう一度お互いへの祝福と感謝の口付けを交わすのだった。

Fin



モドル

ひさしぶりにさらっと短く書こうと思って思いついたまま書いてみました。BBSでもちらっと書いたのですが、袴田サマはじめ、世の中のすばらしいレックスアイラ小説をお書きになってるみなさまがスバラシイ懐妊小説を書いてくださっているので、あえてうちはさらっと!閑話休題&報告、みたいな感じでv難しいことも何もない、バカップルの話です。
うちのレックスとアイラはくっつくまでとくっついてからやることやるまでの紆余曲折が長いので、子供が出来たら案外あっさりしてる気がする、と思って(汗)・・・。あくまでも、このサイトの二人は、です。多分みなさまのイメージとは違ったのではないかと。

きっとベオラケは修羅場ってると思います。ラケシス、つわりとか重そうだもん。
で、ベオがすっげー八つ当たりされてるの。(可哀相)

バーハラへの進軍に関しては、もう、最後まで連載もの、として書きつづけることになると思います。きっと「血の轍」の倍の量にはなるでしょう。なので、ヘルニアがもちっとよくなってパワーが出来てからに。それまでベオラケや、書いてないレックスアイラのバカっぱなしとか・・・。連載ものは、間をおかずにアップするのが鉄則だと信じているので。(アルシフすみませんでした)
キュアンとエスリンの悲劇も、バーハラ後に別話で書きたいですね。彼らのイベントをみたくないがゆえに5章はじめでとまっているあたくしのカセット・・・。