Missing Link-8-

ミレトス地方の突破口として本拠地にするためベルルーク城前で攻防が繰り広げられているとき、アルテナが弓兵に狙われているのをフィンは気づいた。
が、アルテナ自身は既にベルルーク兵と戦闘にはいっていて、死角から狙っているボウナイトの姿は見えない様子だ。
「アルテナさまっ!!」
声をあげても打ち合う音や馬のひづめの音、多くの音が入り乱れて声は届かない。
「バカ、何やってるんだフィン、危ない!」
そう叫んでフィンの背後に回りこんだパラディンをアレスがなぎ払った。語調が荒いのは、フィンが集中力を欠いたことに気づいての叱責だ。
「すまん、アレス!」
叫ぶものの、アレスの方を見る余裕もない。アレスも同じくすぐに他の兵士と剣を合わせることになってしまった。
フィンにあせりが見える。アレスはその原因が何なのかを把握しようと瞬時に辺りを見渡した。そのとき!
「アルテナ様っ!?」
悲鳴が聞こえる。ティニーの声だろうか。
上空にいたアルテナのドラゴンの翼を弓が射抜いたのが見えた。
フィンは青ざめてそちらをみようとするが、目の前の敵兵の剣をうけるので精一杯だ。
「いやああああっ!!」
その叫び声はパティのものだ。アルテナのドラゴンは羽ばたく力を失って、見たことがない格好で近くの山陰に落ちるように消えていった。
「フィーは!?」
セリスの声が聞こえる。
「向こうの村を守りに行っている!」
答えるのはアーサーだ。今彼らの中で強い回復魔法を使えて機動力が最も高いのはフィーだからだ。
リーフはライブの杖をもっていたが、その程度で上空からおちたドラゴンとアルテナを回復できるとは思えない。
どうやらそのやりとりを聞く限りでは前線から離れているラナやコープルが気づいてくれることだけを願うしかない状況であることがわかる。
「大丈夫だ、フィン!」
「リーフ様!」
すっかりマスターナイトとしてクラスチェンジをしたリーフがフィンとアレスの近くまで光の剣を振るいながら近づいて叫んだ。
「ナンナが、行ってくれた。ラナとコープルがリブローを持っているんだが、怪我人が多くてまかないきれない。
それに、姉上ではなくてやられたのがドラゴンだから、直接いかないと様子がわからないだろう」
「ナンナが」
「僕が弓兵に気づく前にナンナが気づいたんだけど・・・間に合わなかった。僕が弓兵を斬っている間にナンナはもう姉上が落下した方向に走り出していたから・・・うおっ!」
そんなことを話している間にも敵兵は襲いかかってくる。リーフとフィンの間に剣の切っ先が割り込んできた。それをデルムッドが迎え撃つ。
仲間の心配よりも、自分の命の心配が必要なようだ。

ナンナは既にパラディンにクラスチェンジをしていて以前よりも機動力にぐんと優れていた。
アルテナのドラゴンが落下したあたりに馬を走らせる。
「わたしが・・・」
もうほんの少し気づくのが早ければ。
ナンナはアルテナの姿を必死で探した。混戦状態の戦いでたったひとりで軍を離れるのは危険だったけれどそんなことはいっていられない。
「アルテナさまあーっ!」
例え敵にみつかることになろうとも、今はそれよりもアルテナをみつけることが先決だ。
しばらくあちこちに馬をはしらせていると、ややあって木々の間におかしな色合いがまざっているのをみつけられた。
「グリッタ!!」
ナンナは半泣きになる。
小さな森の木がいくつか折れて、上から落下してきたドラゴンの重みで枝がばらばらとそこいらに落ちている。
あの日ナンナとアレスが隠れているのを飼い主であるアルテナに伝えずにそっとしておいてくれたそのドラゴンはあお向けの状態で無様に木のクッションの上に横たわっていた。
「グリッタ。生きてる?」
ふしゅー、ふしゅー、と聞きなれない音がする。それは通常仰向けにならない生物であるドラゴンが苦しい体勢のためにもらしている息のようだ。
「生きてる。」
ナンナは馬から降りて、ひとまずリライブを試みた。
どこに傷を負っているのかはわからない。翼を射られたところは見えたけれど、どんな状態で落ちたのかまではわからないからだ。
リライブの光がドラゴンの体を覆う。翼の部分と後ろ足の腿部分がやけに眩しく光っているから、きっとそこが一番傷ついていたのだろう。
「どうしよう。グリッタ、動けるかしら・・・」
ドラゴンは気がつかない。けれど、多少息が楽になっている様子だ。
それからナンナはあちこち木をかき分けてアルテナを探した。
「あっ!」
アルテナはドラゴンの反対側の翼の下に隠れるように倒れていた。
「アルテナさま」
ナンナはかけよってアルテナの脈をとって、呼吸を確認する。外傷はいくつかあるが、攻撃はうけていない様子だ。
けれど、折角の美しい顔に枝をすった跡がいくつかあった。
「お可哀相に」
リライブをかけると柔らかい光がアルテナを包む。それをみてもあまりアルテナは傷ついていないことがわかる。
「よ、よかったあ・・・」
それでもまだアルテナは目を覚まさない。そっと体を楽な体勢にしてやるためにナンナはアルテナの体を引っ張り出した。
翼の下にいたから、体が圧迫していただろう、と上半身の鎧だけ外してあげて横向きに寝かせてやる。
「・・・!」
そのとき。
がさがさ、と音がした。そして、離れてしまった自分の馬がいななくのが聞こえた。
ナンナはびくっとなって音がした方に振り向く。
(敵兵だわ!)
アルテナを運ぶのに馬から離れたのはまずかった。もしかして、逃げる足を奪うために自分の愛馬は殺されてしまったのだろうか。
「みつけたぞ!」
茂みから敵兵が何人か現れる。危惧していたことがおこって、ナンナは嫌な汗をかいた。
銀のつるぎを構えて、ナンナは敵兵を迎え撃った。アルテナを守りながら戦わなければいけない挙句、普段乗っている馬もいない。
「く・・・」
1人、2人の動きは交わしながらなんとか凌いだが、3人めの槍がナンナの脇腹をかする。
ばあっと一気に布が赤く染まってゆく。それが自分の血だと理解出来ないまま、敵のもう一撃を剣でうけた。
「ぐうっ!」
その衝撃で銀の剣を手からこぼしてしまう。もう駄目かもしれない。絶望感にナンナはうちひしがれ、死をも一瞬覚悟をした。
けれど、今、自分は1人ではない。
「・・・アルテナ様っ・・・」
ひるんだナンナの隙を見逃さないで敵兵は倒れているアルテナに剣を振り下ろそうとする。
「くそっ!」
手が勝手に動いた。
背中につけたまま、ずっと手にしていなかった大地の剣をナンナは瞬時に引きぬく。
脇腹の痛みは、どうということはない。
だって、そうではないか。
あの頃の心の痛みに比べたら、そんなものはなんてことはない。
あの頃は、逆だと思っていた。心の痛みをごまかすために体を痛めつけていた。けれど。
ざじゅっ、と聞き慣れない音で、ナンナはアルテナに切りかかった兵士に大地の剣を振り下ろした。
「ぐあああああ!」
「・・・」
目の前で敵兵は倒れ、自分は淡い光に包まれて脇腹を癒されるのがわかった。ふさがった傷口に自分の血で濡れた衣類がくっつくのが気持ち悪い。
鳥肌がたった。
人の命を奪って自分の細胞に還元する感触は一瞬嘔吐感を伴う。
その感触はあまりに久しぶりのものだった。ナンナはそれにとまどう。そのとまどいの瞬間に、後ろから敵兵が襲いかかる。
たち尽くすナンナと敵兵の間に、アレスの愛馬が飛び込んできた!
「ナンナ、大丈夫か!?」
アレスはその場にいた敵兵をミストルティンで一撃で屠り去った。
「アレスっ・・・」
「大丈夫、見ていた。見ていたから。」
子供が親に何かを見咎められたような顔でナンナはアレスを見た。そして、アレスも子供に言い聞かせるように力強く答える。それに安心したのか体から力が抜けて大地の剣をナンナは手から落とす。アレスの後ろからフィンがやってきて、馬から降りてナンナに駆け寄って両肩を強く掴んだ。
「大丈夫か、ナンナ」
「はい。大丈夫です。アルテナさまも・・・そこに」
「そうか。よく守ってくれた。ありがとう」
フィンは笑顔でナンナの頭をなでると、アルテナのもとに駆け寄って膝をついた。アレスは静かに馬から下りた。
「お前の馬は生きてる。敵兵に驚いて走っていってしまったようだ」
そういってそっと大地の剣を拾い上げた。ナンナは動かない。
「アルテナさま」
フィンはアルテナを抱き起こす。軽く揺すると、アルテナは目をゆっくりあけた。
「・・・フィン?私・・・ああ、無様だ。心配をかけたようね・・・」
「ご無事で、よかった・・・。」
「・・・私・・・死ぬかと思った。あなたにもう会えなくなるかと、そんなことを思ってたわ」
「そんなことを、おっしゃらないで下さい。あなたが、私より先に死ぬわけがない!」
そういってフィンはアルテナの体を抱き締めた。
アルテナは側にいるドラゴンに気づいたようだった。
「グリッタは・・・」
「大丈夫です。でも、早くうつぶせにしてあげないと・・・。」
ナンナは無理に笑顔を作った。
「もうすぐリーフ王子たちもくる。敵兵はおおむね蹴散らした。みんなで助けてやろう」
アレスが言うと、アルテナは安心したように瞳を閉じた。外傷が治っても、うちつけた体が痛むようで顔をしかめる。
小さくうめいてから、フィンの腕の中で力を抜く様子がわかった。
「ナンナ、これ」
アレスは大地の剣をナンナの背中の鞘に戻した。
「見ていたから。お前が、自分自身のためではなく、アルテナを守るためにこの剣を抜いたことを。・・・お前は剣士として正しい判断をした。よくやったな」
「ありがとう、アレス」
そういったナンナは、目を潤ませていた。
「どうした」
「わたしは、違ったわ」
「え?」
「わたしは、死ぬかも、と思ったけれど・・・お父様のことなんて、思い出さなかったわ・・・」
「ナンナ」
アレスは初めてナンナを抱きしめた。それを別段驚きもしないでナンナは受け入れる。
「アレス、わかる?それが、どれくらいショックなことだったのか」
「・・・わからない。わからないけど・・・」
ナンナはそのままアレスに体を預けてきた。アレスの抱擁はとても雑で、優しくもなんともないけれどそれで構わなかった。
「それだけ必死だったんじゃないのか」
「そうじゃないの。わたし・・・」
ナンナはアレスにぎゅっと体を摺り寄せた。泣いてはいない。けれど、笑顔ではなかった。真剣な眼差しでアレスを下から見る。
「わたし、あなたを思い出していたんだわ」
「・・・そうか」
一瞬アレスは息を飲む表情をした。
それから、もう1度
「そうか」
とつぶやく。ナンナのことは離さないまま、ナンナの頭をなでた。
「そうよ」
それだけいうとナンナは初めてアレスの背中に腕を回す。
「あなたが、くれたんだわ。私に、大地の剣をもう1度、自分ではない誰かのために使う勇気を」
「そうか」
もう1度だけアレスはそういった。そして、ナンナを抱き締める腕に力をこめる。
「アレス、ちょっと苦しいわ」
「我慢しろ。」
「だって」
「・・・気持ちいいんだ。感謝してるなら、これくらい我慢しろ」
「やあね、アレスったら!」
くす、とナンナは笑って体を離そうとした。が、アレスはそれを許さない。
「アレスっ」
「わがままなお姫様だな。もう俺の腕は飽きたのか。」
「そ、そうじゃないけど」
「まあいい。」
アレスは特に何も言わずに手を離した。お互いに何も追及しなかった。
ふとみると、フィンはそっとアルテナを抱き上げている。
「歩けないのか」
アレスが声をかけた。
「いや。腰をうってしまったらしい。馬に乗せるわけにもいかないだろうから、先にアルテナ様を運んでくるよ」
「・・・わかりました。」
「!ナンナ、脇腹、血だらけじゃないか!」
「大丈夫。傷はふさがっているの。」
「そうか。・・・大丈夫か」
「ええ」
フィンの腕の中でアルテナはうっすらと目を開けて、小さく笑った。
「ありがとう、ナンナ殿。・・・グリッタも助けてくれて。」
「いいえ。痛みますか。」
「かなり。でも、本当にうっただけだと思う。申し訳ないけれど・・・グリッタを、お願いしたい。この子はあなたのことが好きなようだ」
「ええっ?」
「・・・ふふ、飛んでいるときにあなたがいると、一瞬あなたの方へ行きたい素振りを見せる。・・・わたしが、あなたと仲良くしたいと思っているからだろうか?」
「アルテナさま」
ナンナはアルテナを抱き上げているフィンをちらり、と見た。愛娘にその様子を見られている、とそこでフィンは意識したらしく、みるみるうちに赤くなった。そんなフィンの様子はナンナがはじめてみるもので、ああ、自分に対してもまだフィンの「初めての表情」はたくさんあるのだなあと思って少しばかり妬ましく、少しばかり嬉しくなった。
「お父様、早くアルテナ様を連れていってさしあげて」
「ああ。・・ナンナ、ありがとう」
そういってフィンも笑顔を向ける。そっとフィンは愛しいものを大事に抱きかかえて静かに歩いていった。
遠くから仲間が来る姿が視界に入る。
「ドラゴンを助けたら、お前の馬を探しにいこう」
「うん」
ナンナはアレスを振り返って聞いた。
「アレス、この戦いが終わったらどうするつもりなの?」
「知らん。考えてない。お前はどうするんだ」
「・・・終わっても、もう少しだけ、一緒にいて。お父様とアルテナ様が結婚するのを、笑ってみられるようになりたいわ」
「おいおい。・・・いつになるのかわからないだろ」
「そうね。・・・嫌?」
「・・・いや。悪くない。お姫様のわがままに付き合うのも。」
「嬉しい」
そういってナンナは笑顔を見せた。ちょっとだけ目の端に涙がにじんでいたけれど、それはアレスは気にしないふりをした。
「お前の口から、フィンの結婚式、なんて出るなんてな」
「自分でも不思議だわ」
「・・・お前は、フィンの幸せのために生きたい、と言っていた。・・・確かに、今日はお前がいなければアルテナは殺されて、フィンの幸せはきっとなくなってしまうところだったのだろう。・・・お前は自分がそうでありたいと思っていたものに、なったんだ」
「・・・ありがとう、アレス。あなたが見ていてくれてよかった」
そのときグリッタがぐるる、と苦しそうに喉を鳴らす音がした。
「グリッタ、気がついた?ごめんね、もうちょっとしたらみんなが来るから、起こしてあげる。」
ぎしぎし、と木をきしませてグリッタは体を起こそうとした。けれど、仰向けになっている上背中がそった体勢になっているため思うように動けない。
上空からフィーが近づいてくるのが見えた。手に縄をもっている。
「やっぱりね!起こせなくなってるんじゃないかって思ったんだ!」
低空飛行になってフィーはグリッタの足に縄をかけた。
「これ、アレスの馬に繋いでおいて!」
グリッタの足に縄をくくりつけて馬で引き起こしてやろう、ということだ。アレスは心得た、とばかりに自分の愛馬の胴体に縄を縛る。
「ナンナ、大丈夫だったかい?」
ややあってリーフやデルムッド、セリス達が駆けつける。戦闘の残処理はシャナンとオイフェにまかせたようだ。
「はい」
リーフ、デルムッドの馬にそれぞれ縄を括り付けて準備をする。あとはフィーのペガサスだ。
「よーし、じゃあ、こっち側にひっぱるようにして起こすぞ!」
セリスがうまく声をかけて馬の方向を誘導する。
やがてほどなくしてグリッタはフィーがうまく引っ張ってくれたおかげで反り返った状態からもとに戻ることが出来た。
ばきばきと木をなぎ倒して体勢が戻ると嬉しそうにグリッタはぐるる、と喉を鳴らした。
「じゃあ、あとは私が誘導していきますから。」
「うん、フィー、頼んだよ。」
セリスが上空のフィーに手をふった。みなはそれぞれ残処理に戻るためにてきぱきと散っていく。
「グリッタ、よかったわね」
ナンナはそっとドラゴンに話しかけた。アレスは縄をほどいて丸めているところだ。
そこへフィーがまた低空飛行で近づいてくる。
「ナンナさま」
「フィー、ありがとう」
「・・・見ちゃいましたよ。アレスと、いつからそんな仲になってたんですか?んもう!」
「・・・・えっ!」
かあっとナンナは真っ赤になった。アレスは反対側の後ろ足の縄をほどいているようで、聞こえていないようだ。
「そんな仲って・・・そうなのかしら?」
フィーは明るくけたけた笑って
「変なの!普通男の人に抱き締められるのって、そういう仲だからじゃないですか」
「そう・・・かもね」
そう答えてナンナは不思議とそんなことを一度だって思わなかったことに気付いた。もちろん、アレスだってそんなことは一度も口に出したりはしないし。
自分では、よくわからない。
けれど、多分、自分はまだフィンのことは好きで仕方がないことも知っている。
「そうかもね。変なの。とても、自然に思えたから」
それでも、アレスの腕に抱かれることがとても自然なような気がして、ナンナは苦笑した。
「おい、ナンナ。縄ははずしたぞ。お前の馬を探しにいかないと」
「あ、ええ」
フィーが気をきかせて飛び上がる。
「じゃあ、あとは私にまかせて!」
ペガサスの誘導で、翼を傷めたグリッタはゆっくりと体をおこして歩き始めた。それを確認して、アレスはひょいと馬にのってナンナに手を伸ばす。
「さあ、いくか。」
「ありがとう」
アレスにひっぱられて一緒に馬に乗るナンナ。
「ねえ、アレス」
アレスの前に乗っけられたナンナは、一所懸命後ろを振り向いてアレスと視線を合わせようとする。
「うん?」
「どうして、さっき私のこと抱きしめたの?」
「・・・今更そんなことを聞かれるとは思わなかった」
心底びっくりしたようにアレスは言った。
「お前が、抱きしめて欲しそうな顔をしていたからだ」
「嘘」
「本当だ。もしかして、フィンの方がよかったのかもしれないが、それは無理だと思ったから。」
「一体、どんな顔してたの、私。抱きしめて欲しそうな顔って・・・」
「・・・不安な子供みたいな顔だ。それに、そんな顔をして抱きしめない男なんて、いやしねえよ。」
めずらしく荒い語調でアレスは言う。
「だから、誰かがくる前に俺が抱いた」
「・・・変なの」
「お前こそ。」
そういってアレスは肩をすくめる真似をした。そしてナンナが前を向いたのを確認して
「いっただろ。勝手に感じたことを言ったりやったりしてるだけだって。あんまり買いかぶるな」
「わかったわ。あまり追求しないことにする」
・・・終わっても、もう少しだけ、一緒にいて、か」
「え?」
「お前、わがままを言えるようになったな」
「・・・」
ナンナは照れたようアレスを見ずに体をちょっとだけ縮こまらせて言った。
「アレスにだけはね」
「構わない。えらい進歩だ。もっと言葉にして、もっと俺を困らせたりしてみろ。これくらいのワガママなら付き合ってやってもいい。」

もう違う。
アレスは腕の中のナンナの感触を感じながら思った。
もう、ナンナはあの切り刻まれた肖像画の女とは全然似ていない。
もう少し進んでから馬を止めてアレスは言った。
「おかえり、ナンナ」
突然の言葉にナンナはまた驚いた顔でアレスの方を振り返った。アレスは口元の片方だけを少しあげて小さく笑っている。
その瞳はまっすぐアレスを見据えて、それからちょっとだけ首をかしげて極上の笑顔を向けた。
「ただいま。待っていてくれてありがとう」
アレスは苦笑してからまたナンナを後ろから抱きしめた。
その抱擁に何の意味があるのか今のナンナにもアレスにもどちらにもわからなかったけれど、それはまたとても自然に感じた。
今はまだ自分の気持ちがどういうものなのか言葉には出来ないけれど。
もしも、また眠れなかったら。
手を握ってあげよう。隣で眠ってあげよう。抱きしめてあげよう。
そんな柄でもないことを思って、アレスは自嘲気味に笑った。
これは恋ではない、とフィンに言ったけれど。
もう恋に続く何かが始まったことにアレスは気付いていた。

もうナンナを見て、ラケシスの肖像画や母親のことを思い出すことはないのだろう。
そして、多分それはフィンも。

「あっ!オリオン!」
愛馬をみつけてナンナは叫んだ。
「よかった!アレス、走って!」
「ああ」
アレスは手綱を握って愛馬を走らせた。


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モドル

まいりました。ラストを決めていたのはいいんですが前半があまりに大仰に長長しくなっちゃったものですから、ラストの収まりが悪くて!あくまでも2、3ページのラストみたいな予定で軽く書いていたので・・・。(汗)
長長と続いていたMissingLinkですがアレス×ナンナになる手前で終わっちゃいました。とにかくもどかしかったので最後ぐらいは唐突に抱きしめさせてもいいかなあ、なんて。唐突なことやりすぎかしら?
いや、でも実は一番書いていて楽しかったのはこのページの前半とかですね!(笑)こういうシーンをちまちまつらつら書くのが大好きなものですから。
今回の反省。
ナンナサイドとアレスサイドの両方の描写をやりながら書いていたので、最後は公平な描写をする必要があったにも関わらずに最後の最後あたりでアレスサイドの描写で終わってしまったことです。バランス悪い話になりました。
まあ、何はともあれこれでやっとこのサイトの目的「カップルの恋愛小説」に「これから」なるところにこぎつけました。
感想等いただけるととっても嬉しいです。