わたしがうまれたひ


【注意】2018/2/11に間に合わず2/12 こちらはPixivにも投稿しております。
愛は込めたつもりです。えっへん。(そこだけ)

ドラクエW28周年記念おめでとうございます。間に合わせたくて勢いに任せて書いたので、いつも通りの誤字脱字ありの推敲校正なしなので「誤字とか萎える……」という方はご注意ください。(といいつつギリギリ間に合わなかった)

というわけで、勇者の誕生日が2月11日という捏造設定でおひとつ。
わたしの小説によく出てくる設定で、天空城の勇者母らしき人は罪を償うためにあの部屋にいるという設定です。
途中暗い部分もありますが、基本ハッピー(当社比)です。


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「ねえ、マリアの誕生日は?」
 それは、旅をしている途中での出来事だ。
 今まで毎年サントハイムで必ず誕生日会を開かれていたアリーナにとって、城から出て初めて迎える誕生日ということで、仲間達みな張り切って誕生日会を開いた。
 ブライは内心「誕生日会をすることで、姫様がサントハイムのことを思い出されて気落ちしなければ良いが……」と心配をしていたが、結果として楽しい誕生日会になった。勿論、アリーナ自身も以前の誕生日会を思い出したり、サントハイムのことも気になったに違いない。だが、彼女はそれを口に決して出さなかったし、仲間達も精一杯彼女に楽しんでもらおうと、心のこもった会となり、ブライの心配は杞憂に終わった。
 丁度その日は野宿になってしまったのだが、焚き火を囲んでミネアが歌い、それに合わせてマーニャが踊る。「ミネアが歌ってくれるのは、本当に特別な時なのよ」と言うマーニャに対して、ミネアは何も言わなかったからきっとそれは本当のことなのだろう。トルネコはキメラの翼を使ってエンドールにひとっとびして、愛妻ネネの手作りケーキを提供したし、ライアンは昔からバトランドの王宮騎士がお守りにしているという小さな匂い袋を「一国の姫君に相応しくないかもしれませぬが」と言いながら渡した。
 ブライとクリフトは連名で腰のベルトを贈った。壊れかけだったことを誰にも言ってなかったのに、とアリーナが驚けば、みなは「気づいてないと思ってるのはアリーナだけ」と一斉に笑う。
 マリアはガーデンブルグで購入してきたハンカチを渡した。一国の姫に相応しいものを彼女は知らなかったので、ガーデンブルグの女王に相談に行ったのだ。結果、城下町にある雑貨屋で売っている本当に普通のどこにでもあるハンカチにしたのだが、アリーナは嬉しそうに「ありがとう!大事にするわね」と大喜び。そっとクリフトはトルネコに「姫様はすぐハンカチに落ちない汚れをつけるので……」と早速心配事を告げ、トルネコに笑われていた。
 ミネアが作った特製スープには、たっぷりとアリーナが好きな食材を使われている。嬉しそうにおかわりを受け取りながらアリーナは
「ブライとクリフトの誕生日は知ってるもの。わたしだって毎年二人にプレゼントあげてるのよ」
と、ブライ達が少し気にしていた「サントハイムにいた頃」からの話をする。その表情は朗らかで、素直にライアンは話にのった。
「ほっほう。ブライ殿がどんなものをいただいているのか、興味ありますな」
「毎年姫様はユニークなものを色々思いついてくださるので、なかなか、うむ、その、なんというか」
「歯切れが悪いわね、おじいちゃん」
「こちらが考えもしないものがやってきて」
 そこで人々はどっと再び笑う。
「マーニャさんとミネアさんは、双子でいらっしゃるから誕生日は一緒なんですよね?」
クリフトのその問いにマーニャが「そーよぉ」と答え、ミネアは「はい」と頷く。そこからひとしきりお互いの誕生日を聞き合って「早く言ってくれたらお祝い出来たじゃない!」なんて話にもなり、流れで冒頭の質問にたどり着いたというわけだ。
「わたし?えっと……」
 勇者マリアは、当然やってくるとわかっていたはずの問いに、ほんの一瞬言葉に詰まらせた。が、すぐさま「2月11日」と答える。
「あのね、わたしの村は小さくて全員顔見知りだったから、誕生日の時は村を代表して長老からプレゼントを渡してくれるの」
 誰に聞かれたわけでもないのに、マリアは自分の故郷の話をする。実のところ、彼女が山奥の村の話をすることはとんでもなく珍しいことだ。そのせいで、人々は彼女の「誕生日」がいつなのか、よりも、村の話をする彼女そのものが気になって集中をした。それが狙いというわけではなかったのだが、なんだか日にちをはっきり覚えられたくない、という無意識からの所業だ。
「プレゼントは長老が用意するんじゃなくて、毎年誰か違う人が用意してくれて……となりのお家のおばさんだったら、木の実を繋げたネックレスどか。剣の先生だったら、新しい木刀とか。こっちも誰が用意してくれたかわかるんだけど、一応内緒ってことになってたの」
 貰ったものはすべて焼き払われてしまったけれど。
 そう続けて言いそうになって、マリアは既のところで言葉を切った。


 その夜、マリアは真夜中の見張り番を引き受け、温かいお茶を淹れるために湯を沸かしていた。ミネアとアリーナ、クリフト以外はみな「お祝いだから」と温めた酒を飲んでいたので、見張りを任せることが出来なかったのだ。
 真夜中、地面にそのまま腰を下ろして膝をかかえ、湯を沸かすための炎をぼんやりと見つめる。少し冷えてきた。上着を軽く羽織るが、身体の内側も温めたい気分だ。


――ねえ、マリアの誕生日は?――


 誕生日。
 山奥の村でみんなに囲まれていた時は、何も疑問を抱かずに、ただただみんなに祝福されることが嬉しくて。何を今年は貰えるんだろうって嬉しくて。
 お母さんがわたしの大好物ばかり食卓に並べてくれて。お父さんも、普段はあんまり飲まないお酒をほんのちょっとだけその日は飲んで「お酒を飲む日は、本当に何か嬉しいことがあって気分が良い日なんだ」なんて言って。
(だけど……)
 マリアは、戻らぬ日々を思って物思いにふけっているのではない。アリーナに無邪気に尋ねられて、その瞬間ようやく初めてひとつの可能性を思いつき、それと今向かい合っているのだ。
(……わたしの誕生日は、本当に『わたしの誕生日』なの?)
 マリアの瞳に炎が映り込んでいるが、彼女はそれを見ているようで見ていない。ただ、ぐるぐると答えのない問いかけを頭の中で繰り返す。そう。答えはない。誰も、誰一人として、彼女の質問の答えを持っていない。

――今まで黙っていたがわたし達夫婦はお前の本当の親ではなかったのだ――


 あの運命の日に突きつけられた真実。それを、再び思い出してそっと瞳を伏せる。
(お父さんも、お母さんも、本当の親じゃないって。ブランカの城では、山奥に天女がって話も聞いた。わたしだけが天空の装備を身につけることが出来るみたいだし、それから、わたしのように緑の髪の人間は、旅をして色んな町を回ったけれど、どこにもいない……エルフ族は緑髪の人もいるけれど、少なくとも)
 地上で生きている「人間」には、いない。
 もう、答えは既に出ている。自分は天空人と地上人とのハーフなのだと。北の山奥に天女が舞い降りた。木こりの息子が結婚したが雷に打たれて死んだ……それらが自分の本当の両親ならば、二人は村にいたのだろうか。それとも、同じ山でも別の場所に住んでいたのだろうか。木こりの家にいたのだろうか。そう。
 一体誰が、自分が本当にいつ生まれたのかを、知っているのだろうか。
 そんなことにこだわることは小さな話だとマリアは思う。いや、思い込もうとした。気付かなかればよかったのだ。何も疑問に思わずにこの先ずっと生きていければ何も問題はなかったのに。
 だが、ふと生まれてしまった疑問は、うまく心で蓋をするには「勇者」である自分のルーツと関わりすぎていて、うまく目を逸らすことが出来なくなっていた。
 自分が知っている誕生日が、自分の誕生日。今まで村のみんなが祝ってくれた誕生日が、自分の誕生日。それでいいではないか。何も困らないし、誰も裏切らない。知らないものは知らない。仕方がない。
 けれども。
(嫌だ。みんなにもしお祝いしてもらって、その時に)
 今日のアリーナのように、きちんと笑顔でいられるだろうか。過去のことを思い出しても、気丈に振る舞って、楽しく過ごせるだろうか。
 湯が沸いて、ミルクパンの湯面にぼこりぼこりと大きな泡が浮き上がる。熱しすぎたかと思いつつ火の上から下ろし、用意していたカップに慎重に注いだ。
 ああ、そうだ。誕生日プレゼントに茶葉を貰ったことがあった……そんなことを思い出しながら。



 そんな「もしかして」を心の中の引き出しに片付けて、そっと鍵をかけて。
 五日後、マリア達はついに天空の塔と呼ばれる、高くそびえ立つ謎の建物に辿り着いた。
 もう、誰もがわかっていた。
 天空の兜。天空の鎧。天空の盾、そして天空の剣。
 それらを身に着けたマリアと、ほんの数名だけの同行を許される「何かの力が働いている」塔。それは、彼女達を天空に導く道標となる建築物なのだと。
 目に見えぬ誰かからの許可を受けて塔の扉を潜った時。ふとマリアは(天空に行くんだ)と強い実感に襲われた。そして、沢山の期待と少しの緊張と少しの恐怖を抱きながら、彼女達は天空に導かれたのだった。



(マスタードラゴンは、何も教えてくれない)
 多くの言葉をマリア達は許されなかった。天空城内を歩き回る許可は得たものの、城の主であるマスタードラゴンはマリアからの質問に対して、ほとんど返答をしなかった。
 だが、間違いがないことが、ひとつ。


――天空と人間の血を引きし勇者マリアよ――


 その言葉を、この天空城の主は口にした。何の躊躇もなく、まるで「お前はもうわかっているだろう」と言いたげに。
 そして、それに対してマリアの心は不思議なほど何も揺れなかった。ただ「ああ、やっぱりそうだったんだ。わたし達が多分そうなのだろうと思い続けていたこと、噂に聞いたこと、それらは全て真実だったのだ」と静かに思い、納得をした。
 ならば。わたしの父は空からの雷で死に、わたしの母は、この天空城に連れ戻されたのだろう。
(この城のどこかに本当のお母さんがいたら。会えたら。そうしたら、わたしはどうするだろうか?)
 そう思えば、共に天空城に訪れた仲間達を前に取り乱すのが怖しくなり、マリアはあれこれと言い訳をして一人になった。
図書館で本を読み上げてもらい、エルフ達が歌いながら踊る姿を横目で見つつ、たまに仲間達とすれ違って「もうちょっとだけ。ごめんね」と謝りながら、天空城の隅々に足を運んで。
 そして、マリアは運命の扉をノックした。



 静かな部屋。天空城は独特の空気があったけれど、その部屋は更に「静かだ」とはっきりと思う。
 家具がいくつか並んでいるのに、まるで生活感がない。その理由はなんとなくわかった。天空城の他の部屋と変わらないように見えるが、この部屋は多分「特別」なのだ。
(こういう場所を知っている)
 それは、マリアにとってはあくまでも直感に過ぎなかったが、彼女がもう少し丁寧に「どうしてそう思ったのか」を掘り下げれば理由が全て見えてくる。
 理由があって、この部屋は静かなのだ。この城のどんな部屋に行っても、ドアを閉じてこんなに音が遮断される部屋はなかった。この部屋だけ、造りはまったく同じに見えるのに異様に隔離されている。そして、チェストやベッドがあるということは生活を誰かがしているはずなのに、物がなさすぎる。
 こういう場所を知っている。それは、ガーデンブルグで仲間が味わった場所。そうだ。牢屋。綺麗で何もおかしくない部屋に一見見えるが、この部屋はおかしい。マリアは脳内で響いた警鐘を、ただの直感だと思っていた。だが、実際はこんなにもそれを感じさせる理由が揃っていたのだ。
 部屋には、天空人の女性が一人。ノックをして「失礼します」と扉を開けたマリアに、その人は何も言わずにただただじっと視線を送り続けていた。
 その視線に敵意はない。ただ。
(……ああ……)
 まだ、何も言葉は交わしていない。
 けれど、マリアは眉間にシワを寄せ、自分の体温が一気にあがっていくのを感じる。だって、明らかにだいぶ年上の、その 部屋にいる天空人の顔立ちは。
(どうしよう。この人は、わたしに、似ている……違う。わたしが、きっと、この人に)
 マリアは、思い切って女性に声をかけた。
「こんにちは」
 だが、その天空人は小さく頷くだけで、何も言わない。
 僅かに半開きになった口元をぎゅっと引き締め、マリアから視線を逸らす。
 地上の人間が珍しいのだろう、なんて風にはマリアには思えなかった。だが、だからといって、何を話せば良いのかわからない。もしかして、あなたがわたしの本当のお母さんですか。たったそれだけの言葉が音にならない。
(……駄目だ。少し、少し、落ち着こう)
 マリアは呼吸を整えた。
と、その天空人はぴくりと顔をあげて
「地上からの客人。あなたの仲間が、呼んでいるようです」
「……えっ、聞こえない、です」
「そうですね。この部屋は、誰の声も届かず、誰にも声を届けられない部屋。わたしは、マスタードラゴンから、あなたにそれを伝えるようにと脳に話しかけられたのでそのまま伝えているだけです」
「……そうですか」
 どうしよう、話をしたいけれど。
 逡巡するマリアから視線を逸らすと、天空人は言葉を続けた。
「……その昔、地上に落ちて、木こりの若者と恋をした娘がおりました」
「……!」
「しかし、天空人と人間は夫婦になれぬのが定め。木こりの若者は雷に撃たれ、娘は悲しみに打ちひしがれたまま連れ戻されたのでした」
 それは、あなたのことなのでしょう。
 マリアはそう言おうとしたが、天空人は軽く手を顔の横にあげ、手の平をそっとマリアに向けて押し出した。
それは「言わなくていい」あるいは「黙って」。そういう意味だとマリアには正しく伝わった。
「……しかし、娘はどんな時でも地上に残してきた子供のことを忘れたことはありません……もし、今のマリアを見れば、きっと涙にくれることでしょう……」
「……!」
 それは、マスタードラゴンに言われたのですか。
 わたしは、あなたに、わたしの名前を言っていない。
「……あなたは、わたしの……」
 マリアの唇から、掠れ声が漏れた。自分の声を聞いて、あまりにその音が震えていることにマリア自身が驚く。
 もう、マリアは理解していた。
 今自分の前にいる天空人は自分の本当の母親で。
 けれども、母と名乗りをあげることが出来ない、あるいは、したくないのだ。ならば、自分が何を言っても、少なくとも今はその姿勢を貫くに違いない。

 きっと仲間達が今ここに共にいれば、誰もが「察しが良すぎるのも問題だ」なんてことを言って、溜息をつくだろう。どうにもならない。そういう性分なのだ。アリーナ辺りは「マリアのお母さんなんでしょう!?」なんてくってかかってしまうかもしれないが、もしそうされても、目の前の彼女は首を縦に振らないだろうと思う。
 何ならば、許されるのだろうか。
 何ならば、彼女から、欲しい言葉を貰えるのだろうか。
 そして、自分にとって、欲しい言葉は何なんだろう?
「……一つだけ、もし、答えていただけるならば教えて欲しいことがあります」
 ドアに近づいて、天空人に背を向けたままでマリアは言葉を投げかけた。天空人は「どうぞ」とも「答えられません」とも言わず、静かにマリアの問いかけを待つ。
「……その連れ戻された天空人は……地上に残してきた娘の誕生日を……覚えているんでしょうか……」
 言葉を選んで、必死に声帯を震わせるマリア。
 静寂。
 外の音も聞こえず、そして、中にいる人間は衣擦れの音一つさせずに、お互い身体をこわばらせている。
 誰の声も届かず、誰にも声を届けられない部屋。
 まるで呼吸音と己の鼓動だけが、自分の鼓膜を震わせる音のように感じる。
(駄目か……)
 彼女は「何故そんなことを」と思っているのだろうか。誕生日が一体何なのだ、と。
「……失礼しました。退室しま……」
「その天空人は」
「……っ」
「娘の誕生日に、毎年、花を……マスタードラゴンに懇願して、その日だけ、一輪、部屋に飾ることを許可されます……ええ、人間と夫婦にはなれないという掟を破った彼女が、花を見ることを許される、たった一日が、娘の誕生日、2月11日なのです」
 ああ、そういえば。天空城はあちこちに花が咲き、水辺がある、とマリアは気付いた。そのせいか、通路を歩いていても、どことなく水っぽさや、花の香りが鼻孔をくすぐっていたのだが、この部屋にはそれすらないのだ。
 天空の掟を破ったことが、どれほどの咎なのかはわからない。わからないが、マリアは唇を引き結び、心を決めた。
「お答え、ありがとうございます。いつか、共に、お二人がお祝い出来ますように」
 マリアはそう言って、最後にもう一度天空人を振り返る。
 その表情は決意に満ち溢れ、晴れ晴れとしていた。
「……で、わたしは、その我儘をマスタードラゴンに通させるためにも世界を救ってくるわ。待っていて!わたしは勇者なんて肩書きも世界のこともあんまり関心ないんだけど、よくぞ世界を救った勇者を産んでくれた、って天空の人達に言われるようにしちゃうんだから!」
「!」
 天空人はマリアの言葉に驚き、瞳を見開いた。ちらりとそれを見てから、それ以上何も言わずにマリアは部屋を出る。
 通路の先でアリーナが手を振って「ねえ!外の穴からクリフトが一人で落ちちゃったの!覗き込みすぎちゃって……!」ととんでもないことを叫んでいた。成程、天空城の外の穴から降りれば、地底に繋がる洞窟があると言う。それは一大事だ。マスタードラゴンも呆れて慌てたに違いない。
「……マリア、何かいいことあったの?」
「うん。あった」
「なあに。教えてよ」
「そのうちにね」
「ええーー、気になる!」
 天空城の扉の前で、ライアンが二人を待つ姿が見える。足早に歩きながら、マリアは笑って
「アリーナ、わたしの誕生日、2月11日なの」
「?この前聞いたわよ?」
「うん。お祝いしてくれる?」
「勿論!みんなでまた沢山食べて沢山歌いましょ」
「うん」
 笑顔のアリーナに力強くマリアは頷いて。
 世界を救う前に、クリフトを救うため、天空城の扉を開けた。




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