アゼルくんの親友

イザークのアイラ王女が仲間になってからしばらくした頃、親友のレックスが彼には不似合いなものを持っているのをアゼルはみつけた。レックスは少し足早に通路を歩き、自分の部屋に戻る様子だ。
レックスはアクスナイトで、しかも斧戦士ネールの血統であるドズル家の次男だ。父親のランゴバルドは聖斧スワンチカを自在に操ると言う。
そんな斧戦士として抜群の血筋をひくサラブレッドとも言えるレックスが、こともあろうに剣をもっているなんて。
アゼルはすぐにその理由がわかって、わずかに顔がほころんだ。
「レックス」
「わっ!」
「何こそこそしてるの」
「あ、アゼルか。おどかすなよ」
「だって、レックスがこそこそしてるから。へえ、いい剣持っているね」
にっこりとアゼルが笑顔を見せるとレックスは動揺した。
「ま、まあな」
「それ、どうするの?まさかレックスが使うとか?」
「そ、そうだ。俺が使うんだ」
また、嘘ばっかり。アゼルはおかしくて仕方がなかったけれど、あまりいじめないでおいてあげよう、と改めてレックスに笑いかける。
「アイラ王女が使ってくれるといいね」
「アゼル、何いって・・・」
と、言い訳をしようとレックスはちょっと口をひらいたが、やがて観念したように
「貢物、とか思われると嫌なんだが。ただ、彼女に似合うと思っただけだ。本当にそれだけだぜ」
「うん。貢物、なんて思わないよ。それにレックスはそもそも女の人に物を送ったりしないもんね」
「よく知ってるな」
「ははは、いつも自分でそういう面倒な女性は付き合う気はないって言ってるじゃないか」
このドズル家の次男坊は家柄のせいなのかなんなのかはわからなかったけれど、決して女に不自由することはない様子だった。とはいえ彼自身、別段滅法女好き、というわけでもない。だからこそ、理由はなんであれ女性に何かを自分からあげようとしているレックスのこの恋が本物なのではないか、とこのときからずっとアゼルは思ったりもしていたのだが・・・。

数日後、アゼルはアイラ王女がその剣を持っていることに気がついた。
勇者の剣、といわれるその美しい剣の見た目はとても彼女に似合っていたし、そして彼女の剣の腕もまた、その剣がもつ価値に相応しいと思われた。
長い黒髪をたなびかせて華麗な動きで敵を倒していくその姿を、美しいとアゼルですら思ったものだ。
剣皇オードの血筋をもつイザーク王家の者ならば誰もが習得する流星剣という技を使う彼女は、それからいつ、どんな戦でもレックスが渡したであろうその剣と共に潜り抜けることになるのだ。

「レックス」
それから随分たったある日、アゼルとレックスが井戸で水汲みをしていると、アイラが声をかけてきた。
わ、お邪魔かな、とちょっとだけアゼルは戸惑うが、アイラは別段なんとも思わないようで呑気に歩いてくる。
「なんだ?俺に用か?」
「ああ」
彼女の手にはレックスが渡した勇者の剣が握られていた。
「僕、ちょっと用事を・・・」
思い出したから、とアゼルがその場から離れようとしたときにアイラはぬっとレックスの目の前に剣を差し出した。
「な、なんだよ」
「直してくれ」
「は、はあ?何をだ?」
「この剣。使い込みすぎてな。修理に出さねばならない」
しれっとアイラは言う。退散しようとしていたアゼルは「えっ?」と足を止めて二人の会話を聞いてしまう。
「それで?」
「お前に渡せば直してくれると思って」
「・・・なんでだよ。お前、俺がこれをお前にやったからって、その・・・俺が、お前に何でも貢ぐとでも思ってるのか?」
レックスは不機嫌そうにぶっきらぼうにそう言った。けれど、アイラの方から声をかけられることがあまり多くない彼は本当は少し嬉しいのではないかとアゼルは感じる。
が、一方のアイラは剣を差し出してもなかなかうけとらないレックスにわずかな苛立ちを見せて言った。
「貢ぐ?何の事を言っているんだ」
「何って、それのことだよ」
「・・・?・・・」
そういって剣を見るレックス。アイラは不思議そうな表情でレックスの側にいたアゼルを見た。
そして、よりによってありえない言葉を発するのだ。
「アゼル、レックスは武器を管理してくれる人間ではないのか」
「・・・・はあ!?」
「わざわざ剣をくれたから、そういうことなのかと思っていたぞ」
どこまで本気なのか、とアゼルは複雑な表情でそっとレックスの様子を見た。と、レックスはかあっと赤くなって・・・もちろん怒りのためなのだろうけれど・・・がしっとアイラから勇者の剣をもぎとって言った。
「なんで「あげる」コマンドも出ない関係のうちから俺がお前のために金を稼がなきゃいけねえんだよ!」
「れ、レックス!」
慌ててアゼルはなにやら不穏なことを口走るレックスをなだめようとした。が、レックスはまるで決闘状をたたきつけんばかりの勢いで
「待ってろ!今直してきてやるからな。そのかわり感謝しろよ!?」
と言い放って走っていってしまった。
後に残ったアイラはしばらくぽかんと見ていたと思ったら、けろっとした顔でアゼルに
「・・・で、あいつは武器係でいいんだろう?」
なんてことを言う。やばい、この女は真剣だ。ホンモノだ。アゼルはそう悟った。そのとき。
視界の中で小さくなっていくレックスが「闘技場でお前の方が稼いでいるくせに!」と叫んでいるのがわずかに耳に届くのがいたたまれなくなって、そっとアゼルは両耳をふさぐのだった。

「んなこともあったっけな」
レックスは苦笑いをしてグラスの中の酒をあおった。
あれから月日がたち、レックスはアイラと気持ちを通じ合わせることが出来て今では同じ部屋で体を寄せ合ってお互いのぬくもりを感じながら毎晩眠っているのだろう。
イザークとグランベルのしがらみを越えることは今の彼らには出来なくて、体を重ねることが未だに躊躇していることは、レックスから聞かなくても彼らの様子でなんとなくアゼルにはわかっていた。
以前と比べてレックスは大分落ち着いてきたとアゼルは思うけれど、彼のアイラへの思いは今もかわらないと感じる。
本当に本当に、レックスはアイラが大切で仕方がないのだな、と時折こちらの方が照れくさい気持ちにもなるものだ。
「レックス、アイラにあげたの、あれ?」
「いや、まだ」
「早くあげなよ。アイラ、喜ぶよ」
「・・・そうかな。あいつ、あんまり装飾品に関心がなさそうなんだけど」
レックスがアイラにあげようと思っている二つ目のプレゼントがなんなのかアゼルだけが知っている。
彼女はイザークの王女だから、たとえどんなにレックスと心が通じて、そして口付けを交わして仲が深くなったとしても、彼女はイザークの民に見守られて婚礼の儀をあげたいに違いない。彼女はそうとは言わないけれど、レックスはそう思っていた。
だから、今はそれは叶う事がないから、せめて。
レックスはあまり自分の恋愛を語ることはしなかったけれど、アゼルには痛いほどわかる。
国を追われてまで、彼女と共にいられることのほうが、今のレックスには幸せなのだろう。

その晩、レックスはぶっきらぼうにアイラに小さな箱を差し出した。
「やるよ」
「なんだ?めずらしい」
「めずらしくて悪かったな」
「私が貰ってもいいものなのか」
「お前にやろうと思ったんだよ」
レックスの手からそっと小箱をうけとってアイラは少し乱暴に箱をふった。
「お前なあ、壊れ物だったらどうするんだ」
「すぐレックスが止めてくれるだろう、そしたら」
「・・・はいはい」
「開けてもいいのか」
「ああ」
レックスはばつが悪そうに壁にもたれかかって窓の外を見ている。月明かりが差し込んで明るい。
円卓の上に灯りをともしているけれど、それはいらないように彼には思えた。
「・・・レックス」
アイラが開けた小さな箱の中には、あまり大きくはなかったけれど綺麗な光を放つ、緑の石がはめ込まれた指輪があった。
レックスは本当は、もっと光り輝くものがいいかと思っていた。
けれど、石の種類や意味合いは彼にはわからないし、何より、戦争中の彼らにはあまりきらびやかなものは似つかわしくないようにも思えたから、出来るだけ邪魔にならず、目立たないようなものをと選んでしまった。アイラは許してくれるだろうか?
女性の好みは千差万別だ。今は、自分の気持ちが伝わればそれでいい。
いつか平和になったら。彼女の故郷イザークへ行くことが出来たら。
そうしたらもっといいものを買ってやりたいとレックスは一人で考えていた。
「レックス!」
照れくさくてまともにアイラの顔を見られないレックスに、アイラはめずらしくとびつくように体を摺り寄せてきた。
「なんだよ」
「ありがとう・・・これは、私がもらってもいいのか?」
「ああ」
少し頬を紅潮させて、アイラはそっと指輪に指を通した。
さすがに俺がはめてやる、なんて恥ずかしい真似はレックスには出来ない。・・・と。
「・・・?・・・」
そのアイラの行為を見て、レックスは不思議そうな表情になる。おいおい、お前、はめる指が違うぞ。いや、確かに薬指だけど出来ればその、左の・・・いやまて、イザークではどうなんだろう?いや、そもそも指輪を贈る意味ってわかってるのか?
一瞬にしてレックスは慌ててアイラの両肩をがしっとつかんだ。
何か嫌な予感がする。
ここではっきりと言わないといけないような、そんなあせり。
「あのな、アイラ。その指輪は」
「レックス、ありがとう。お前から物をもらうなんて、勇者の剣以来だな・・・」
頬を染めて嬉しそうにアイラはレックスを見上げた。
その様子があまりに可愛らしい(レックスのラブフィルターなのだが)もので、レックスは言葉を失った。
アイラは更に、嬉しそうに、彼女にしてはとても無邪気にレックスに矢継ぎ早に言った。
「それで、レックス」
「う、うん」
「これは、一体どういう効果があるんだ?」
「はあ?」
「力が強くなるのか?今より素早くなるのか?それとも魔法に強くなるのか?」
「ちょ、ちょっと・・・アイラ・・・」
彼の恋人は、それはもう、嬉しそうに。
「お前にもらった勇者の剣は大層役にたっているぞ。で、これはどういう効果があるんだ?今から楽しみだ。早速明日試させてもらおう。朝から一緒に稽古をしないか?」
「いや、いやいや、いや、待て!アイラ!」
「ありがとう、レックス」
彼に極上の笑顔を見せてとどめをさすのだ。
「・・・・どういたしまして・・・」
愛しい恋人の満面の笑みみ負けて、レックスはがっくりと肩をおとした。そして、彼は無言でベッドにはいってしまったという。

そして翌朝、アゼルはアイラから「この指輪は何の効果があるんだ?」と聞かれて、親友のために無言で涙を流したとか。
いや、流さなかったとか。

Fin



モドル

バーハラへの話を書き始めて現在アイラが出産しそーなとこをかいていたら煮詰まりまして。
たまにはこういう本気でバカな話を書こうかと。ええ。
思えばこういう話、あまりこのサイトでかかないまま突っ走って来たなあなんて・・・。
どこかで既に出ていそうなネタですが、自分なりに書いてみました。最近アゼルすきだなあ・・・。なんか、うちでは結構かわいそうな目にあってることが多いような気がします。気のせいかもしれないが。