告白-1-

レックスはおもしろくなかった。
最近ホリンがなんだかアイラと仲が良い。
確かにホリンはアイラと同じくイザーク人だし、剣士で、なおかつ月光剣なんかの使い手だからアイラとの共通点は山ほどある。
一方レックスはといえば、なんといっても自分はドズルの血をひいていてどう考えたってイザークの人間からはうけいれられないわけだし、アクスナイトという称号をもっているから剣についての話題も豊富ではない。かといって「勇者シリーズの武器は2回攻撃が出来て嬉しいな」なんて馬鹿な話題をいちいち持ち出すほどレックスとて分別がないわけではない。
更に最近シャナンがやけにアイラになついていて(それは前からなのだが)レックスは話しかけるタイミングもなくうらめしそうに遠くからアイラを眺めるだけだ。
「恋する青年は何を思い煩っているんだい?」
「かーっ、そんなうきうきした顔で言うな!」
アゼルが時々そういってレックスを笑うけれど、本人はいたって真面目だ。
「ははは、ごめんごめん。・・・放っておくと、ホリンに取られちゃうよ?」
「・・・それはそれで仕方ないな。なんていったって、俺はランゴバルトの息子だものな」
「レックス」
「・・・けっ、クソ親父め。息子の恋路に邪魔をしやがる」
シャナンがアイラに抱きついているのが見えた。
シャナンに対してだけはアイラも笑顔を簡単に見せる。それがレックスは我慢がならない。
あんな笑顔を、自分にむけてくれたことがない。いや、そもそもアイラがレックスをどう思っているかなんてまったくわからないわけで。
「ったく。俺もよわっちくなったもんだ。自分に興味がない女には興味なかったのによ」
「・・・うっわー、大きくでたね。」
「不自由してなかったしさ。別に俺本人じゃなくて俺のお家柄ってヤツが好きな女もいっぱいいたしな。そんでもいいと思ってたし。」
「・・・ってことは、アイラが今レックスには興味がない、ってこと?」
「!!!」
アゼルに指摘されてレックスはがっくりと自分の言葉に落ち込んだ。
「レックスって・・・」
1人SMだなあ、なんてアゼルは思ったけれど、それを口に出すのはヤバイだろう。

レックスはアイラの耳飾がないことに気づいた。
女らしさがシグルド軍1ないこの女が、唯一身を飾るものとしてつけていたのが耳飾だ。
まあ、いまはレッグリングをつけているから一応それも装飾品といってもいいわけだが・・・。
「アイラ、耳飾、どうした」
レックスが声をかけようとしたときに、ホリンがやってきて先にアイラに声をかける。
(ちっ!さすが傭兵は素早いぜ・・・)
わけのわからない負け惜しみを思いながらレックスは足を止める。
「ああ、シャナンにあげたんだ。欲しい、といっていたから」
「シャナンが?・・・よく似合っていたのに」
「そうか?」
「・・・ああ」
レックスはタイミングも話題も失ってしまって、仕方ないか、とアイラに話しかけるのをやめた。
しかし、レックスが見たところとりたててアイラとホリンとの仲が進展しているわけではないということがわかったので、ほっとするのだった。

レックスは勇者の剣を入手してアイラのために渡した。それは確かに下心はあったけれど、彼女の危険が回避されると思ったからだ。
それ以外にも何度も何度もアイラの暴走を防いだり、危ないところを助けたり、と自分としてはやりすぎなくらいアイラをフォローしているつもりだ。
それだって、彼らの関係はちっとも先に進まない。
(仕方ねえな。誰しも好みってのはあるしな・・・)
別にレックスのことを嫌いなわけではないとは知っているが、そこから先の感情についてアイラは何も教えてくれない。
そんなことを考えていたら、普段あまり会話をすることもないシャナンがレックスのところにやってきた。
あんまりにもめずらしいことなのでレックスはとまどった。
「なんだよ」
挨拶もしないでシャナンは手のひらをひろげてレックスに差し出した。そこにはアイラの耳飾の片方がのっかっている。
「これ、アイラからもらったんだ」
「・・・・ああ、そうかい。よかったな」
「僕、アイラと結婚したいっていったんだ」
ぶはっとレックスは飲んでいた水を噴出しそうになるのをこらえた。
「はあ?」
「そうしたら、約束の証にこれ、くれたんだ」
そう答えるシャナンの表情は真剣だ。レックスも笑い飛ばすことが出来ない。
「・・・で、なんで俺に見せにくるわけ?」
「レックスに宣戦布告しようと思ったから!だって、レックスはアイラのこと好きなんだろ」
「・・・お前、本当に俺と勝負する気?」
「うん。僕は、大きくなったらアイラと結婚するんだ。そして、イザークを再建する。アイラが僕を認めてくれたら
そのときに結婚してもらうんだ。これは、その証だ。」
イザークを再建。
その言葉を持ち出されると、レックスは答えられなくなってしまう。
「・・・フェアじゃないな、お前だけそれをもらうのは」
ちょっとだけレックスは彼らしくない苦笑をしてたちあがった。
「ったく。嫌になるぜ。」

アイラらしくない、とレックスは思った。
子供の言葉ではあるけれど、アイラは約束をしたことを違える人間ではない。
シャナンに対してそんなことを約束して耳飾を渡すなんて、レックスが知っているアイラらしいとは思えなかった。
「俺には耳飾をくれないのかよ」
城壁の上にのっかって、ぼうっとひなたぼっこをしているアイラをみつけてレックスは言った。
声をかけてからレックスはアイラのとなりに一緒に腰をおろす。
「何故お前にやる必要がある」
「もう1個、あるんだろ」
「ホリンにやった」
「・・・!!」
レックスはあまりに予想外の答えでそのまま固まってしまった。
「欲しかったのか?・・・お前にやるつもりは毛頭ないぞ」
「・・・お前、ホリンのこと・・・」
「?」
アイラはレックスが何をいいたいのかまったくわからないようだ。
一方のレックスは、自分が好きで好きでたまらないこの女がホリンと結婚の約束にでも耳飾をやったのではないかと思って頭の中がぐるぐる回っている。
「私に何かがあったときは、シャナンの力になって欲しいとホリンに託した。あの耳飾があれば、何かのときにイザークのものである証になる。・・・1度断られたけれど、私がシャナンのために出来ることは限られているから」
「・・・どうして、自分に何かがあったら、なんてことを言うんだ」
面白くない、という顔でレックスはアイラに言った。
「別に・・・」
アイラは特に表情を変えずにつぶやいた。
「お前こそ、なんで私の耳飾を欲しいと思ったのだ」
「好きな女が・・・他のオトコに、結婚の約束とかいって渡したって聞けば、誰だって欲しいと思うだろ」
「ああ、シャナンのことか」
またアイラはさらっと「好きな女」という言葉を流す。
それがレックスにはたまらなく苛ついて、たまらなく愛しく感じる。
「どうしてホリンに渡したのかは・・・」
アイラはそっと音もなくたちあがった。さらさらの黒髪が風に吹かれる。それをレックスは座ったままでじっと見ていた。
「私が、弱くなったからだ。私はシャナンを命に代えても守りたい。けれど・・・それが本当に出来るのか、自分で信じられなくなったからだ」
初めてアイラが気弱なことをいうのをレックスは聞いた。アイラはまっすぐレックスをみつめて苦笑いをする。
それすら彼女にはめずらしいことだった。
「これ以上わたしを、弱くさせるな」
「・・・アイラ?」
何故そんなことを言うのかますますレックスにはわからない。
が、アイラはそのままレックスのことを置き去りにして歩いていった。
普段のレックスならば「ちょっと待て」と声をかけるに違いなかったのだろうが、何故かそれは出来なかった。
多分、もっと俺は自分で考えないといけないことがあるのだろう・・・。なんとなく、レックスはそう思った。

レックスはあてがわれた部屋に戻ろうとした。
角を曲がると、廊下にホリンがたっていた。明らかにレックスを待っていたという様子がわかる。
「よお。」
レックスは片手をあげた。ホリンは何も言わずにレックスが近づくのを待っている。
廊下の両脇には小さなランプがごてついた装飾をされながらちらちらと炎をゆらしている。
装飾が過剰すぎて肝心の灯りがちょっと暗いのが、陰気な感じがしてレックスは嫌いだ。
「どうした。俺は男に待ち伏せされる趣味はないんだが」
「あいにくと俺も男を待ち伏せる趣味はない」
ホリンは苦笑した。
「・・・お前さんが、俺とアイラのことを気にしていたってあの魔道士のボウヤに聞いたからさ」
「アゼルか」
余計なことを、と思ったけれどレックスはそれを口にはしない。
「俺の片思いは終わったようだ」
「え?」
「告白も何もしやしなかったのに、もう終わっちまった」
そういってホリンは肩をすくめた。
「何の話だ」
「私に何かあったらシャナンを守ってくれ、とこれをもらった」
耳飾をみせるホリン。
「その言葉で十分だろう」
レックスはホリンの言葉に含まれている意味がわからない。
「どういうことだ」
「鈍いやつだな。だから無神経なドズルの人間はイザーク人に嫌われるんだ」
その言葉が本音でないことはわかっていたが、レックスはむっとした。
「怒るなよ。・・・わからないのか。そんなんじゃああのお姫様のお守は出来ないぜ」
「・・・これから精進する。悔しいな、お前にはわかるのか」
「わかるね。簡単なことじゃあないか。・・・お前とは一緒に生きていかない、といってるんだ、アイラは」
「・・・」
「生死を共にする伴侶として、俺は選ばれなかったってことだ。それくらい、気づけ」

お前にやるつもりは毛頭ないぞ

それは、レックスがシャナンを託すのに信用がおけないからだろうか。
それとも、アイラはもともとレックスのことを嫌っているのだろうか。
それは、レックスがドズルの系譜をもつ人間だからなのだろうか。
それとも・・・。

これ以上わたしを、弱くさせるな


Next→




モドル