告白-2-

アイラはベッドにはいる前にめずらしく寝酒を飲んでいた。もちろん安酒だけれど、アイラはそういうことにうるさい女ではない。シャナンを守って旅をしている間に色々なことを覚えることを余儀なくされた。
安酒の味も覚えたし、平民以下の暮らしも覚えた。シャナンにだけは不自由な思いをさせたくなかった。
自分はシャナンと剣しかない。
ずっとそう思ってきた。そのどちらかでもやり通せないのならば、自分の存在はいらない。
「・・・まったく。」
弱くなったものだ。そんな馬鹿な話があるか。よりによって・・・
ドンドンドン、と不躾な音がする。
その音でアイラは誰が来たかわかった。
「なんだ、まだ用事があったのか。面倒な男だ・・・」
返事も返さずにドアをあけると、予想通りの男がそこにはいた。
「うるさい。一体なんだ」
「俺は、お前を弱くしているのか」
開口一番レックスはアイラに聞く。
いま、自分が考えていたことをストレートに聞かれてアイラはめずらしくとまどった表情で言葉をどもらせた。
「な、なに、言ってる」
「俺が、お前を弱くさせているのか」
ドアをあけたままで廊下と室内で彼らはまっすぐお互いをみつめていた。
「それは、お前にとって迷惑なことなのか」
「レックス、お前・・・」
「俺は、お前にとっては害になる人間なのか。」
アイラは答えない。レックスはアイラに触れることもなく静かに立っていた。
いつもならば、痺れを切らしてレックスが自己解釈を交えて更に追及をするのに、それはなかった。
それだけを本当に聞きたいのだ、ということがアイラにもわかる。
「お前がいると、私は弱くなる」
アイラは目をそらさない。
「欲しいものが増える、ということは、それまでずっと欲しかったものや、そうでありたいと思うものに対する濃度が薄くなることとは違うのだろうか。」
レックスは答えない。
「例え、気持ちが変わらないとしても・・・人間に限界がある以上、どこかで何かのバランスをとらないといけないだろう。
私は、自分のためにシャナンを守れなくなることだけは許せない」
「・・・守れば良い」
「なのに、お前がいると、私は何故だか気持ちが弱くなる。」
「何故だ。」
「理由はわからない。わからないけれど、それは事実だ。」
「だから、ホリンに髪飾りを渡したのか」
うなづく。
レックスはふう、と溜息をついた。
「お前は、短絡なんだよ!」
その物言いはいつものレックスらしく、アイラはその言葉でほっとした。
「第一なあ、わからないなら放っとくなよ。わからないからって、シャナンのことだけ予防線をはっとくってのはお前、順序が違うだろ!」
「じゃあ、どうすればいいのだ」
「そういうときは、俺に聞けよ。俺が教えてやる!」
「レックスは私のことをそんなに知っているのか?」
間抜けな質問にレックスは苦笑した。慣れたこととはいえ、このピントのずれ具合が時折たまらずつらくて、そしてたまらず愛しい。
「・・・さっきの、俺の質問に答えてくれたら教えてやるよ。」
「なんだっけ?」
「・・・・お前、人の話はちゃんと覚えているよなっ」
「そういうのが苦手だと知っているくせに」
「俺がお前を弱くしてんのか、って話だよ。で、それはそうらしいってことがわかった。あとは、それはお前にとって害なのかって。」
アイラは首を傾げた。そのまま微動だにしないけれど、眉根が寄っている。
そうこうしている間に廊下をアレクが通りがかってにやにやと2人を見ていく。
「・・・それはー、明日では駄目だろうか」
「駄目だ。明日になったらどーせお前、昨日のことは忘れろ、とか言い出すからな」
「・・・なんだ、どうやらレックスは私のことをわかっているらしい」
レックスはがっくりと肩をおとした。そんなところで評価されたって嬉しくもない。
「とりあえず、中にはいるか?」
「いや。いくらなんでも夜に女の部屋に入るわけには」
「変なやつだな。女の部屋に訪問した以上はあまり変わらないと思うが」
全然違うだろう!と叫びたいのをレックスはこらえる。
「だから、どうなんだ。」
「・・・」
アイラが黙っていると今度はデューが通りがかる。なんだかレックスはいたたまれなくなってきた。
「やっぱ、入るわ・・・」
「ほら、見ろ」

「酒なんて、飲むのか」
「たまに」
「・・・意外だな」
「レックスは飲まないのか」
「飲むぜ。」
レックスはアイラが飲んでいたグラスを無作法にも断りなしに手にとって口をつけた。
「安酒だな」
「・・・お前のような人間は、そんな酒はのめないだろう?」
「なんで?飲むぜ。俺、そんなにグルメに見える?」
「いや・・・育ちとか・・・」
「アイラに言われるとは思わなかった。」
笑うレックス。
「俺は、不肖のドラ息子だからな。」
「ふうん」
なんとなくアイラは嬉しそうな顔つきだ。その表情はレックスが見たことがない表情だ。
「一口飲んでいくか」
「・・・そーやって話をそらそうとしてないか」
「バレたか」
悪びれないでアイラは言う。椅子を勧められてレックスはひとつしかないおんぼろの椅子に腰をかける。アイラは簡素な固いベッドのふちに腰掛けた。
「改めて座ってする話でもない気がするんだがな」
「・・・別に、害だとは思っていない」
「・・・そうか」
「ただ、それは今は害になってない、というだけかもしれない。わからない。」
アイラは静かにレックスを見た。
「・・・答えたぞ。次はお前の番だ」
「・・・そーだな。でも、本当はお前は、わかってんじゃねえの?」
「何が」
「なんで、気持ちが弱くなるのか。いや、違うよな。弱くなるっていうより・・・」
「・・・」
アイラはレックスから目をそらした。
その仕草はいつものアイラからは考えもつかないくらい恥じらいの様子が見える。
「それは、わかる。違う。私は、守りたいものが増えただけだ」
「・・・そうだな。だけど、気にすることないだろう。逆に、お前を守ろうとする人間がいるんだから。」
「それでは、シャナンを守れない。私は無力だから、全てをそれに傾けなければシャナンを守りきれない。なのに、他に守りたいと思うものが増えては、どうしてよいのかわからない。それが私の気持ちを弱くする」
唇をかみしめてうつむきがちにアイラは言った。
「わかってるんじゃないか。なあ?」
レックスは愛しそうにアイラを見た。レックスはもうわかっている。アイラが守りたいものと言っているものは一体何なのか。
ずっと自分が欲しかった言葉を、アイラからもらえるというその期待感がレックスの心を満たしていく。
だって、答えはひとつではないか。
が、そんなレックスの喜びは長くは続かなかった。
「わからない!」
顔をあげて、噛みつくようにアイラは叫ぶ。
「一体、それはどういうことだ?何故、私は、お前なんかをっ・・・」
「ちょっとまて」
レックスはわずかにひるむ。
「・・・そこが、一番わかんないのか、お前は」
「なんでお前を守りたいなんて思ってるんだ?私は。いくら考えたってそれはわからん」
レックスはあんぐりと口をあけてアイラを見た。いたってアイラは真剣だ。
「それは、お前はわかってるのか、レックス」
「・・・ふー・・・。わかった。ああ、そうだな。お前にはちょっと難しい・・・そうだな、天地がひっくりかえったような話題かもしれん」
溜息をついて、眉をしかめて、レックスは言う。
「じゃあ、仕方ない。本当はお前の口から聞きたかったんだが、そいつは無理のようだな」
「何をだ」
「お前は、俺のことが好きなんだ。・・・なんでそんなこと、俺から言わなきゃいけないのか納得出来ないけどな」
「はあ?」
アイラは何をいってるんだ?といいたげな顔でレックスを見る。
レックスはアイラの反応があまり芳しくないのでさっきまでの嬉しさはどこかに飛んでしまい、またいつものように不安になる。
が、それは一瞬のことで、もうレックスはいつものレックスではなかった。
「・・・そーゆー話だろ。お前は俺が好きだから、俺のことを大事に思ってるから、シャナンのことだけにすべてをかけることが出来なくなっちまったんだ。」
「そ、そうなのか?」
「・・・そーだよ」
レックスに言われてアイラはかーっと赤くなる。その様子も見たことがないアイラで、レックスはいてもたってもいられないほど愛しい気持ちが喉のあたりまでこみあげてきた。
「私はレックスが好きなのか!?」
「・・・そーだっていってるだろ。」
「・・・知らなかった」
アイラは呆然と口も半開きでレックスを見ている。
どこまで本気なのかな、とレックスがしばらく様子をみていたけれど、何の反応もそれ以上ない。
「お礼は?教えてやったんだから、感謝しろよ」
「あ、ああ・・・」
本気で呆けているらしく、アイラはなんだかよくもわからず返事をした。が、少しづつ自分を取り戻してきたようで、ちょっとだけ眉根をよせた。
「お前、気づくのが遅いんだよ。俺はずっと待っていたのに。」
椅子から立ち上がってレックスはアイラの横に座る。アイラはまだぐるぐると自分自身と問答を続けているらしく難しい顔をしている。
「お前がわからないことは俺が教えてやるよ。俺がわかることならな。」
「それは、いつも通りだ」
「ああ、そうだろ?だから、お前が俺の事を好きなことだって本当だ」
そういうとレックスは強引にアイラの体を引き寄せた。するとアイラは過剰に反応して真っ赤になって叫んだ。
「待て!レックス!その、そういうのは早いと思う」
「?何が?」
「まだ、その、私はよくわかっていないから、そういうことは明日まで待ってくれ」
「そういうことって・・・」
「いや、ここはベッドだし」
「・・・馬鹿か、お前は!!!!!!」
今度はレックスが真っ赤になって立ち上がる。
「俺の事が好きかどうかよくわかってない女を抱くわけないだろうが!」
「あ、違うのか。なんだ。安心した」
「っていうか、明日まで待てって何だ!明日ならいいのか!?」
「まあ、その、一晩眠れば心持ちも変わるかと思って」
安心したのかけろっとアイラは言う。レックスはもう、このどうにも出来ないちょっとだけネジがはずれているのではないかと思われるイザークの姫が愛しくてたまらなくてかぶさるように上から抱き締めた。
「お前ね、なんで簡単にキスとか俺にしちゃうわけ」
「静かになるってアゼルが言ってたから・・・」
「他のやつにも、するのか?」
「・・・どうだろう?・・・しないかな。」
「ほら見ろ。俺だからだろ」
「レックスだけがうるさいから」
「!」
もういつものへらず口が出る。そのやりとりすらも愛しいと思ってしまうほど、レックスは本気でアイラにイカれている自分を呪った。
「俺は、お前としかキスしたくねーぞ」
「そうか?・・・というか、したいのか?」
「ああ。」
答えると、アイラの承諾を得ずにレックスは無理矢理アイラの顔を上にむかせて少し荒く口付けた。
アイラは無抵抗でそのままレックスにされるがままになっている。
「・・・嫌じゃなかったか?」
唇を離してからレックスは聞いた。が、アイラはいつものようにレックスの質問なぞ聞いていないような答えを返す。
「・・・お前、上手いな」
「・・・っつーか、誰と比べてるんだ!お前は!!」
「内緒」
もうアイラは開き直ったのか、まったくいつもどおりだ。立ち上がると吠えるレックスに小さく笑って、
「安酒でも、一口飲んでいけ。お前がいったことを信じようかとちょっと思った」
「ちょっと、ってのはひっかかるけど・・・」
「男が小さいことを気にするな」
「いっとくけどな、明日になって昨日のは気の迷いだ、とかいうのはナシだぞ」
「わかった。うまい言い逃れでも考えておく」
そういって安酒をもうひとつ用意したグラスに注ぐ。
「アイラ。さっきの話だけど、改めて言ってもいいか?」
「ん?なんの話だ?」
レックスはちょっとおちてきた前髪をかきあげて、アイラに小さく笑って言った。
「・・・俺に、お前を守らせる権利をくれ」
「・・・本当に馬鹿だな、レックスは」
くす、とアイラは見たことがない穏やかな笑みをみせる。
「いつだって、お前は私を守っているじゃないか」
「・・・・そうか」

「昨日の話なんだが、レックス」
翌日アイラはレックスに声をかけにいった。
みな馬に餌をやっていて周りにはノイッシュやらシグルドやら馬部隊が群れているところにアイラはとことことやってくる。
「な、なんだよ。まさか昨日のことは気の迷いだ、ってやっぱり言う気か?」
「そう言おうかと思ったけれど、お前が怒ると思って。」
周りが密かに聞き耳をたてていることをレックスは感じ取りながら、カレらしくなく赤くなって言う。
「じゃあ、なんだよ!」
「やっぱり、今日になって思ったけれど、まだセックスは待ってくれ」
「・・・・お前は、ハズカシイとかいう感情はないのかーーーーっ!!!!!」
「?おかしいやつだな。気の迷いだというと怒ると思って正直に言ったのに」
レックスの方が赤くなって叫ぶ。周囲がどよめいたのが感じられた。
「俺がいってる気の迷い、ってのは、お前が、そのっ!俺のことをっ!」
「ああ、そっちのことか。」
周りの視線が痛い。レックスは脂汗をかいている。ちょっとこっちへこい、とアイラの手をひっぱっていきたい気分だが、ここでそんなことをしたら周囲の誤解はとけないだろう。と、アイラはけろっとして続けた。
「・・・やっぱり、お前のキスは上手いと思う。気の迷いじゃあない」
「それも違う!!」
「?おかしなやつだ。あ、シャナンが呼んでる。」
そういってアイラはふいっと逃げていってしまった。
「・・・レックス、その・・・まだセックスは早いんじゃないか(韻を踏んでいるのがイヤなカンジ!!」
シグルドが背後で冷静にそんなことをいうのがレックスの繊細な心を更に傷つける。
レックスはその場でがっくりとひざをついて四つんばいになって悔し涙を流していたと言う・・・。
「っていうか・・・俺・・・あいつから何も言われてないじゃん・・・」

Fin

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モドル

今回はあまり周りの環境やら状態の書き込みを細かくしないで、アンジェ(独占欲)に続いてバカっぽく会話だけのやりとりでガリガリ書いてみました。レックスが頑張ってます。タイトルの「告白」は(笑)言葉にすると未遂なんですけど。気持ちは通じてるらしい?ということで・・・。
というわけで、最後までアイラからの言葉はもらえないは、一体誰と上手下手を比べられてるのかわからないは、さんざんなレックスでございます。
あたしのアイラ観は、レックス×アイラのときだけ非常識な女になってます。でも、すごいアイラは何もかも本気だと思う。本気でシャナンと剣のことしか考えていないと思います。フィン×アイラのとき(おい)はそうじゃあないのです。
次のFEもきっとレックス×アイラで、1Pで終わるショート予定でございます。
もう少しこの二人の微笑ましい?バカップルぶりを読んでくださいませ。
そのうち、ダークなバーハラ編も書きたいので・・・。