重症

レックスとアイラが本気で恋人同士になったらしい。
その噂はあっという間にひろまった。
シレジアでラーナ王妃の厚意に預かって彼らはセイレーン城を本城とし、長くの滞在をさせてもらっていた。
もちろん、この先戦がないと思っているわけでもないが、季節は冬に差し掛かって誰しも戦に向かないと思っている時期だ。
生活するために冬支度もしなければいけなかったし、そこそこ忙しく、そこそこ平和な日々にちょっとだけシグルド達は慣れてしまっていた。そんなおりに出て来たその話題はとても意外性があって、誰もがおもしろおかしく聞いたものだ。
みんなが興味をもったのは、アイラが一体レックスのどこにひかれたか、ということだったのだが、その件に関しては
「レックスのキスがうまかったと言ってたぞ」
とアレクがちょっと小耳にいれたことを口にしたため、またたく間に「レックス床上手」まで、間違った話が広まってしまった。
アイラの方は別段何を言われても気にはしないタイプだからいいとして、レックスは非常にいたたまれず、今日もアゼルに愚痴をこぼしていた。
「まあ、いいじゃない。」
くすくすと笑ってアゼルは言う。
「だって、本当のことだし」
「何が」
「レックス床上手なんじゃないの?女の人の扱い得意らしいじゃないか」
「お前、虫も殺さないような顔して、すげえことさらっと言うよな」
「今に始まったことじゃないだろ」
レックスは苦い顔をしてアゼルを見た。
「んなこといってるお前はどうなってるんだ」
「何が」
「ティルテュ。幼なじみなんだろ」
「うん、そうだけど・・・?」
「あの子、可愛いじゃないか。気になってないのか」
「レックスの誘導尋問にはのらないよ」
アゼルはそういって涼しい顔で歩いていってしまった。
「くっそー!食えない奴。」
それでも、自分の親友がこうやって変わらず自分の愚痴を聞いたりうまくいなしてくれるのはありがたい。戦の最中だということを一瞬でも忘れさせてくれる。それはとてもレックスにとってありがたかった。

同じベッドで毎日眠るようになったわけではない。
時折、アイラがレックスの部屋に、レックスがアイラの部屋に。シレジアの寒い夜にお互いのぬくもりを求めてやってくるだけのことだ。それ以外のことは、何もない。
シレジアの冬は厳しいけれど、とても雪景色が美しい。自分の恋人(?)はそれをきちんと感じているだろうか?
そんなちょっとしたことが気になって、レックスは今日はアイラを連れて遠乗りでもしようと思っていた。
「こ、子供が出来たあ〜!?」
「ええ」
真昼からなんの話だ、とレックスはいぶかしんで、セイレーン城の一角にある門兵用の詰所を覗いた。
「そうか。ありがとう、エーディン!」
その声はジャムカだ。
レックスは驚いて慌てて二人の前に飛び出す。
「なんだって?」
「あら、レックス」
「レックス。俺達、子供が出来たんだ!」
手放しで喜んでいるのは、シグルド軍きってのキラーボウマスター(?)のジャムカだ。
エーディンは涼しい顔でレックスに笑いかけて
「赤ちゃんが出来たのよ。レックスも、祝福してくださるわよね?」
「・・・おめでとう。そうか。よかったな。」
「これから、シグルド様のところにもいかないといけないわね。」
レックスは二人にもうちょっとだけ祝いの言葉を形ばかり投げかけてその場を離れた。
詰所を出た所で、後ろから声をかけられる。
「しかし、これでユングヴィとヴェルダンの仲は完全にとりもてるってわけだな」
ひょい、と現れたレヴィンが言う。
「うわ、どこから!」
「お前、鈍いな。さっきからいたのに。」
と飄々とレヴィンは無表情で言う。レックスはしみじみ今のレヴィンの言葉を心で繰り返した。
「・・・そうだったな。敵対していたんだものな。」
「俺は、あまりそこいら辺のことには詳しくないが。お前は知っているんだろう?」
レックスはそれまですっかり、自分とアイラのことばかりを考えていて忘れていたことを思い出した。
この旅の途中から、あまりにエーディンとジャムカが熱愛っぷりを発揮していたのでうっかりとしていた。そもそもは、ユングヴィと敵対関係にあったヴェルダンがエーディンをさらったことでシグルド達もアゼルもヴェルダンへ攻め込んだのだ。そして、ジャムカの父王を倒してしまった。ジャムカは自分の国を裏切り、シグルド軍に入るような形になってしまったし、エーディンはエーディンで自分を助けてくれたシグルド達についてきたことによってユングヴィを離れて反逆者として名を連ねることになってしまったのだ。
「・・・どちらの国に戻ったって、今は居場所はないのにな」
レヴィンは冷ややかに言う。が、それは間違っていないし、だからこそ反逆者としての汚名を晴らす必要がある。
その点はレックスが考えていることとレヴィンが言いたいことは一緒だ。
「それでも、愛しいと思う気持ちが強かったのだろうな。」
柄でもないことを言ってしまってレックスは自分で肩をすくめた。仕方なく無理矢理言葉を付け加える。
「あの二人は、本当に深く愛し合っている様子だし」
「・・・ふうん?お前さんだって、そうじゃないのか?」
レヴィンはそう言ってさっさとその場を離れていった。

不思議な気分だった。
(そりゃ、やることやればコドモも出来るわな)
が、これからの彼らのことを考えると、反逆者の汚名が晴れない限りは何が起きたって仕方がない。
それを考えるといくら愛し合っているとはいえ、子供を作るような気にはなれなかった。
(そもそも・・・)
そもそもレックスの彼女、とはシグルド軍きっての剣の使い手で、異様なまでの強さを発揮しているソードマスターだ。
そんな彼女に身ごもらせるわけにはいかない。
(それは、俺が守るとか守らないとかそういう話じゃない。ここにいるすべての人間の未来にかかわることだ)
レックスにはそういう予感がしていた。
今までだってアイラがいたかいないかで大きく戦局が変化したであろうことは多々あった。
あのイザークの姫は、明らかにオードの系譜をもつ完璧な剣士だ。
流星剣を使い、見切りのスキルを見につけ、ソードマスターになった今では追撃に連続、と言い方は悪いけれどきちがいじみている。(これ、禁止用語ですか。)はっきりいって、アイラに敵う剣士なぞシグルド軍には誰一人いないのではないか。
「レックス、どうした」
「アイラ」
セイレーン城を出た所で、アイラは黒髪を冬の冷たい空気にさらして静かに立っていた。
めずらしく首元には毛皮を巻いている。とはいえ、王宮貴婦人達が身につけるようなものではなく、どちらかというと猟師達が仕留めた獣の毛皮を戦利品として巻いている、という風情なのがちょっとレックスには笑えた。
アイラはちょっとだけ、色素が濃い唇を尖らせて言った。彼女の唇は紅なぞささなくても綺麗な色だとレックスは思っている。
「お前から呼び出しておいて、遅い。もう帰る」
「待て待て。」
このせっかちなところがあるイザークの姫は、こういってレックスを困らせるのが実は好きなのだ。
「今日はラケシスからも誘いがあったのだ。お前がこんなに待たせるなら、ラケシスと遊ぶ」
「あ、遊ぶ!?」
「うむ。一緒に雪に咲く花を見ようと誘ってくれたのだ。レヴィンが教えてくれたらしくて。」
「そうか。お前、案外とあのお姫様と仲がいいんだよな」
「・・・身内を失う辛さを知っているからだ」
「そうだな。・・・お前はいい子だな。」
「ふざけるな、人を子供扱いして。・・・まあ、どちらにしてもラケシスはベオウルフと出かけただろうからいいのだが。」
「なんだよ、わざと拗ねてたのか」
「そうとも言う」
そんなことを口に出せるようになったのだな、とレックスは嬉しくて仕方がないけれど、それは内緒だ。
「レックス、馬には乗らないで、歩こう」
「なんで」
「ん?馬に乗ったら、ラケシス達の邪魔をするところへいってしまいそうだから」
「お前でもそういうこと、考えるのか」
「・・・ラケシスは、まだ、大事な時期だ」
その言葉はよくわかっていた。兄エルトシャンを失ったラケシスを、誰もが心配したけれど、誰もが彼女を立ち直らせることは出来なかった。
アイラは比較的他人の心の動きなど敏感でもないしどうとも思っていない風だったけれど、先ほど彼女が口にしたとおり、身内を失うということに関しては、この軍の中では悲しいことにアイラが最も近しい。
それは自分達グランベルの人間がそうさせてしまったということをもちろんレックスは忘れていないし、アイラは何も言わないけれど彼女だって忘れているわけはない。
だからなのか、アイラはまったく誰にも一定以上は心を開かないが、ことラケシスに関しては同情とか共感とかとはまた一風違った感情があるらしく、めずらしく口に出す。この姫が他人のことを口に出すことはとても希で、それがどんなに悲しいことであってもちょっとだけレックスはラケシスが妬ましく思うこともあるのだ。
もちろん、それは男としては口に出せないことだし、恥ずべきことだとも百も承知なのだが・・・。
「歩こうか、アイラ。」
「で、どこにいくつもりだったのだ?」
「どこでもない。この雪景色を二人で見ようかと。」
「ふうん?毎日見られるのに」
「バカだな。二人で見るってのに意味があんの。もちょっと静かなところにでもいこうぜ。いつもがやがや最近野郎達がうるさくてかなわない」
くく、とアイラは笑って言った。
「レックスは床上手だそうだ」
「お前!そんなとこだけ揚げ足とるなよ!」

「エーディンに子供が出来たそうだ」
「知ってる」
「なんだ」
少し歩いた所に、雪が綺麗に降り積もっている林があった。
その中にちょっとはいったところに不思議とごろごろと石や木材がころがっている場所がある。
どうやら昔猟師の小屋でもあったのだろう。ぽっかりと木々があいたところに人為的に運ばれたような物が雪に埋もれている様子がわかった。そこで二人は横たわっている木材に座る。
獣にやられたのか、と最初警戒したけれど、それにしては人が使っていた生活用品がないので、単純にこの林から出ていったのだろうと推測出来た。一応ここいら辺は安全だということは調査済みだけれど、用心に越したことはない。
特に今日レックスは馬に乗っていないから尚更だ。
アイラはレッグリングを持っているから足取りが軽い。このマジックアイテムはもともと足が遅くないアイラの足取りを更に軽くしてくれる効果をもっている。おかげで馬にも負けぬほどの移動力をもっているものだから、前線に出過ぎてレックスとしては心臓に悪い。逆に言えば、いつも近くにいられるのだが・・・。
そんな彼女についてきて、いささかレックスは足取りが重い。けれど、それは取りたてて苦痛でもなかった。
レックス本人はシグルドからリターンリングを受け取っていたから、いざギブアップしたら本城にいつでも帰ることは出来る。もちろんそんなことをするつもりは毛頭なかったけれど。
「聞いていたのか」
「いいや、そうじゃないかと思っただけだ。」
「お前がわかるのか」
「わかる。動きが変わる。自然と腹部を庇う動きになるし、自分の体を大事にしだす。エーディンは最近前よりも厚手の服を着るようになって、ひざ掛けを使っていることが多くなっていた。そうじゃないかと思っていた。」
「寒いから、じゃないのか」
「違う。動きが変わる、と言っただろう」
レックスはびっくりしてアイラを見た。
こんな風に他人をこのお姫様が見ている、ということすら信じられない様子だ。
アイラは憮然とした顔で自分を見ているレックスに気付いて、小首をかしげた。
「どうした?」
「お前、案外他人のことわかってるじゃないか」
「・・・わかるものは、すごくわかる。でも、わからないものは全然わからない。」
「そりゃそうだけど。」
「レックスのことは、まだわからないことが多い。」
「お互い様だろ、そんなのは」
そういうとレックスはアイラに顔を近づけた。そっと口付けてアイラを見ると、アイラは少し恥かしそうに笑う。
「それでも、お前と眠るのは、悪くない。」
「そりゃどうも」
レックスも笑い返す。
未だに何もしないで一緒に眠るだけの二人だけれど、それでもレックスは幸せでたまらない。
この、ちょっとだけ世の中とピントがずれている少女がそういってくれることがどれだけ嬉しいことなのかを彼は十分にわかっている。
「レックスも、子供が欲しいのか」
「はあ?」
「そういう話をしたいのかと思った。着くなりエーディンのことを言うから」
「・・・いいや、そういう話をしたかったわけじゃない」
それはとても自然とレックスの口から出た。
「そうか」
そういうとアイラは何も言わないで木をみつめた。
上から降り注ぐ冬の日差しをうけて、きらきらと輝く樹木を目を細めて見る。
「イザークは緑が多い土地で・・・こんな風に雪は積もらない」
「俺がいたところも、そうだ。どっちかというと、草原よりも砂地が多い土地だった。・・・だから、お前と雪を見たいと思ったんだ。・・・どっちにせよ、この戦が終わったら、この雪を見ることはないだろうから」
「戦が終わったら、か。そんなことを考えたこともなかった。・・・一生続くような気がたまにする。シャナンを守り続けることが、まるで永遠に続くような。・・・けれど、私が自分で思っているより、今までの人生でそうであった時間は短いのだな」
そういってアイラは髪をかきあげた。
「・・・長かったんだろうさ、お前にとっては」
「ああ。多分。」
アイラはレックスを見ない。きっと、今彼女はイザークのことを思い出しているのだろう。
その彼女の想い出にはレックスはただの邪魔物だ。イザークはグランベルと敵対することになってしまい、ようやく彼女はシャナンを守りながら逃げおちたのだ。レックスは、加害者側だ。そもそも戦争というものはどちらが被害者でどちらが加害者、というものではないはずだ。けれど、今となってはシグルドやレックスの心に芽生えて来たグランベル皇帝への不信を否定できず、もしも彼らが懸念していることが真実ならば、イザークは被害者側になってしまうのだろう。
レックスは黙っている。
グランベル側の自分が、アイラに子供を産ませるなぞ。
ありえない。
本当はいつだって体を重ねたいと思っているけれど、それは、してはいけないことだ。
イザーク王家の生き残りがアイラとシャナンだけであれば尚のこと。
(本当は、ホリンに譲るのが筋ってもんだけどな)
けれど、それは出来なかった。レックスに出来ることは、反逆者としての汚名を晴らし、そしてグランベルとイザークの国交をどうにかして回復すること。そこが自分とアイラにとってはスタート地点なのだと思える。
(俺も、ヌルくなったもんだな・・・)
そんなお国のことはどうでもいいと思っていた。
自分はドズル家でも次男だから、そういった政(まつりごと)については長男のダナンと父親に任せて、自分はいつだって奔放に生きられればよかった。
好きな女と好きなときに愛し合って、行きたいときに行きたい所に行って。
「レックス、どうした。」
そんな今までの人生を覆すように、この少女は自分にとても大きい荷物をしょわせてくれる。
その重さが、とても愛しくて、重ければ重いほど力を貸してやりたいとすら思う。
等の本人はそんなことはちっともわかってはいないのだろうけれど。
「いや。雪、綺麗だな」
「ああ。・・・いつまで、ここにいられるのだろうな。何もかも、忘れてしまいそうで、わたしは、恐い」
「恐いのか」
「そうだ。恐い。春になって雪が溶けるように、イザークのことを忘れてしまいそうで、恐い。・・・お前といると、特にそう思える。」
「それは、悪いことなんだな、お前にとっては」
「そうかもしれない」
別段強く感情が動いているわけではなさそうだが、アイラは彼女にしてはめずらしく自嘲気味の笑顔を見せた。
「・・・寒いのか」
「少しだけ」
「そうか」
レックスはアイラを引き寄せた。アイラは嫌がらず、かといって積極的にレックスにくっつく、というわけでもなく、ただただそれに体を預けるだけだ。
「私は、泣き言をいうことが増えた気がする」
「泣き言じゃねえよ」
「そうなのか?」
「・・・もっと、俺に教えてくれ、お前を」
アイラはそっとレックスを見上げた。
「レックスは私のことをよく知っていると思ったけれど」
「ばーか。いくら俺でも、お前の過去とか想い出とか、そういうものは共有出来ないぞ」
「そうか。そうかもな」
「そうかもな、じゃない。」
そういってアイラの髪にレックスは口付けた。他に愛情表現が最近は見つからない。
そもそも自分から女にキスすることなんて、今までそうそうなかったことにレックスはもう気付いている。
更に言えば、こんなに貪欲に相手のことを知りたいと思ったことがあっただろうか?
(俺もかなりやられてるな)
「レックス」
「ん?」
声をかけられてアイラの髪から顔を離した途端、アイラから軽い口付けをされた。
レックスは一瞬不覚にも呆けてしまった。それから
「な、なんだよ。俺は今日はうるさくないぞ?」
「別にうるさいときだけにキスするわけじゃないぞ」
「・・・そうなんだと思ってた」
「レックスだって、バカだ」
そういってアイラが笑うのをみて、レックスは深くため息をついた。
「・・・どうした?」
「呆れた」
「何が。」
「自分に呆れたの。」
「?」
何を言ってるんだ、とアイラはちょっとばかり眉根を寄せてレックスを見上げる。
「・・・何が呆れたって?」
「・・・うーん、まあ、なんだ。」
しかめっつらをしてレックスは仕方なさそうに言う。
「俺は、本当に・・・お前とセックス出来ないくらい、お前のことが好きなんだなあ、と思って」
「はあ?」
「・・・いや、いい、忘れろ。」
「レックス!苦しい!」
レックスはぎゅう、とアイラを強く抱きしめた。
あまりに突然のことで、じたばたとアイラはその腕の中で暴れていたけれど、レックスは一向に力を緩めるそぶりを見せない。やがてアイラも観念したように静かになった。
「どうしたんだ、レックス」
「・・・いいや。アイラ、今日も、一緒に寝よう。明日も、明後日もだ。シレジアの夜は寒いしな」
「めずらしいことを言う」
「俺が女に明日明後日の約束をすることなんて、初めてだぞ」
「ふむ。それでは私はレックスの初めての女になるんだな」
「・・・お前、わかってて言ってるの、そういう殺し文句」
アイラはくすくす腕の中で笑う。
ああ、もう。
「レックス、みろ、鳥が」
鳥が雪がついた枝から枝へ渡っていく姿が見えた。
その衝撃で軽く枝がしなって雪がぱさぱさと小さくおちてくる。
レックスは雪景色をみながら、自分の腕の中の小さなぬくもりへの愛しさをつのらせるばかりで。
あまりの自分の重症さ加減に目眩がする。
それにどれだけ気付いているのかわからないアイラはまた笑って言った。
「じゃあ、一緒に目覚めよう。明日も明後日も。目が覚めたときにお前が隣にいるのは、悪くない」
「・・・そうだな」
そう言ってレックスはまたアイラを抱きしめる腕に力をこめた。うわ、とアイラが小さく声を発したけれど、それで力を緩める気はない。
ラケシスにすら嫉妬してしまったり、アイラのことを考え過ぎて抱くことが出来なかったり。
そんな自分を生まれて初めてレックスは知った。
あまりにこの気持ちが濃すぎて、レックスはどんなに力を入れてアイラを抱きしめても、もっともっと力を込めたくなってしまう。
体を重ねることが出来ないほど、愛しく思うものが出来るなんて考えたこともなかった。
シレジアの冷たい空気の中で、自分の不甲斐なさとやるせなさと、そしてやっぱり。
この腕の中にいる少女への愛しさで、自分の知らない自分を案外好きだと思ったりした。
目覚めたときにとなりに愛しい人がいるときの、あの胸の高鳴りをアイラも感じているのだろうか?
二人で一緒に寝よう。
せめて、寒さを言い訳に出来る間は。


Fin



モドル

どうやら前回、Hはしなかった模様です。(苦笑)よかったよかった。(?)
どれだけレックスがアイラにイカれているのかを書きたかっただけなんですけれど、思ったよりも重い話になっちゃいました。
もっとこう、さらーっと「くっそー!なんでこんなに好きなんだ、オレ!」みたいな話になる予定だったのですが・・・。
この人々の背景を考えるとそうもいかないようでございます。
シレジアは聖戦唯一の豪雪地方なので、色々なエピソードが書けそう!と思ったのですが、全然雪景色と関係ないお話になりましたね。まあ、ここいらは閑話休題ということで・・・。すこしづつ、すこしづつ彼らの仲が進展して。
そして、すこしづつすこしづつ・・・悲劇のバーハラに向かっていくのです。