懺悔

「エルト兄様」
わたしはあの人の名前を呼ぶ。

「どうした、ラケシス」
あの人はわたしの名前を呼ぶ。

間違いなくあの人の名前を一番たくさん呼んでいたのは私。
そして、わたしの名前を一番たくさん呼んでいたのはあの人。
その名前を呼ぶことは、わたしが生きている、ということの要素のひとつで。
また、その名前を呼ばれることが、わたしが生きている、ということの要素のひとつだった。
それを失うまでは、そんなことは考えたこともなかったのに。
誰が生きても、誰が死んでも。
あなたを失っても、わたしが一人になっても。
それでもまた、何事もないように日が昇り、日が沈む。
世界は誰が何をしたって揺るがない法則で動いていて、こんなちっぽけな私の祈りすら受けいれてもらうことはできなかった。
何かをなくすって、こういうことを言うんだわ。
なくし物をしたときは、誰もが探すはずなの。
けれど、それがもうみつからないことを私は知っている。
生きる、ということの一部だと思っていたあなたを失ったわたしは、それでも気が狂うことがなく朝がきて、目覚めて、この足で地面を踏んで立ち上がる。
喉が渇けば水を飲んで、お腹が減れば何かを食べる。
ああ、なんて愚かなわたし。
なんて下等な生き物なのだろう。
わたしはあの人を思いながら気が狂うことも許されず。
また、今日も剣を握って私の行く手を遮る者を切り伏せる。
そうすることで、わたしと同じように、なくし物をしてしまう誰かがどこかにいるに違いない。
それは、この時代を生きるための摂理だ。
誰かから何かを奪う順番が回って来て、
誰かに何かを奪われる順番が必ず回って来る。
あの人はそれを知っていたし、私にそれを教えてくれた。
それが遅いか早いかの違いだけだ。
本当ならば、それは必要がないことで、あの人はそれをしなくていい方法をいつでも考えていた。
誰も傷つけずに、奪わず、奪われずに生きていくためのこと。
生きる手段としてそれだけを知っていれば、戦なんてものは起きるはずはないのだと、あの人はいつも思っていた。
なのにそんなあの人は。
傷つけて奪っていくだけの傲慢な生物のために、いなくなったのだ。
順番が回ってくる覚悟があった人が、その覚悟がない生物に命を奪われてしまった。
それが、わたしには、許せない。

「ラケシス」
朝が来ると、ベオウルフは私の部屋に訪れる。
彼は何も慰めは言わなかった。
そうであることで、彼が本当にあの人の友人だということが私にはわかる。
この人もまた、順番が回ってくることを初めから知っている人なのだろう。
「おはよう、ベオウルフ」
「ああ。よく眠れたようだな、顔色がいい」
「いわないで。みじめになるから」
「馬鹿なことを言う」
私を愛してくれている彼は、彼をまだ愛せない私に触れずに言うのだ。
「あの人がいない世界で」
わたしはそこで言葉を切る。
彼はその言葉の意味は十分わかっているけれど、何も言わない。

どうして、私は気が狂わないのだろうか。
だって、ここにあの人はいないではないか。
ああ、お願い、エルトシャン。
あなたという存在を失ってしまったわたしが、生きていく上で何の不都合もないように
また朝を迎えて夜を迎えてしまう。
そのことをどうか、責めないで。
私があなたを思う愛情を、どうか、疑わないで。

どうして、私は狂わなかったのだろう。
あなたが側にいたときは、狂いそうなほど、あなたを求めていたのに。


Fin



モドル

ベオ×ラケ序章です。
私のラケシスは、エルトシャンを失っても気が違うようにはなりません。そういう意味ではナンナ→フィンの方がダークですね。
っていうか、近親相姦はいかんよ!!
・・・と思うのですが、エルト×ラケシスは公式カップルだと信じてますので・・・。まあ、最後にはベオがラケシスを更正してくれることになるだろうから許してください。
続き物、というより、あとで3章構成くらいのベオラケを書きたいです。
が、すぐ書くか、レックス×アイラでバーハラまでいってからなのかは今の所未定です。
最初のプレイでベオ×ラケを作るときは「んだよ、んな男にラケシスやれるかっての!」と怒ってたのですが、今は世間知らずのお嬢さんを見守ってくれるベオが案外スキになりました。(笑)私のベオの印象は、ふがいない男、だったのですけれど、勝手に年月とともに想い出はキレイに(?)なっていくらしく、最近ベオがカッコイイ気が・・・。(気のせい)それは、トラキアやってフェルグスのことを好きになったからなのかもしれません。ベオの剣。