永遠の契約
別れが近いことをバハムートは知っていた。
今彼の腕の中にいる緑の髪の少女は、もうほどなくしてこの月の地下渓谷に潜んでいる邪悪な気をまとうゼロムスという月の民を倒して、この月に静寂を、青き星に平和を取り戻して、本来彼女がいるべき場所へと戻るのだろう。
彼女の仲間達に合わせるように、青き星の民と同じ形態(要するに人間の形だが)をとった彼は、疲れていたリディアを膝の上にのせて髪を梳いた。あまり深い意味はない。疲れている様子だったから、ごつごつした岩の上に座るよりはその方がいいと思ったし、幼い子供というものは頭をなでると喜ぶものだと思っていた、ただ、それだけのことだ。
自分の体を形成する源に少し手を加えてやることでバハムート達幻獣は他の生物の形態をとることが出来る。それも向き不向きがあるようで、バハムートやリヴァイアサンといった力が大きい幻獣は、自分達を呼び出してくれる人間にとても近い細胞に組み替えることが出来るけれど、ボムやらゴブリンなどの大層モンスターに近い幻獣はそういったことを得意としていない。
幻獣神である彼が他の幻獣達を産み出したとき、そんなことは意識をしなかったのにな、とそのことを思うとなんだか不思議な気持ちになる。
腕の中で寝息をたてている少女を見て、ふとあまり考えたことがない単語が浮かんで来た。
平和。
別段その言葉がいいものだとバハムートは思ったことはなかった。
戦よりはいい、とも特に思ったことはない。
幻獣達はお互いを傷つけない。だから彼らの世界には戦はほとんどないといっても良いし、だからこそ平和を求める、なんていう人間くさいことを考えることもそうそうない。
けれど、彼のもとに度々訪れてくる召喚士の少女は戦を嫌い、平和を望み、そしてそのためにバハムートの力を貸して欲しいと言う。
理由などはどうでもいい。
幻獣は自分が認めた召喚士に呼び出されて、自分の力を発揮する。
それだけが生きている意味だったし、一生のうちのたった一度しかその機会に恵まれなくともそのために生きているという認識は刷り込まれている。
バハムートの長い生の中で、彼を呼び出すことを許可した人間はこの少女が二人目だった。
一人目に出会ったのは、いったいどれだけ昔のことだったのだろうか。
その人間の造作は覚えているし、声だって忘れてはいない。
それでも、その人間と共に過ごした時間(召喚されている時間も含めて)はあまりにも短くて、何十年どころか何百年の記憶を持ち続けるバハムートの記憶巣から少しずつ薄れていくのを彼は実感していた。
青き星から月にやってきた緑の髪の召喚士リディアがバハムートのもとに足繁く通うようになって、彼らの「一日」という単位で時間を換算すると今日で6日目だ。
日に日にバハムートを召喚する場所が、地下渓谷の最奥に近くなっているのがわかる。
彼ら青き星の民が言う「昨日」は、あまりにリディアの仲間も体力を消耗していたために長い時間休息をとることを余儀なくされたようだった。青き星の民の体はとてももろい。更に言えば、今バハムートの腕の中で寝息をたてている少女はまだ大人の女性になる途中で、足首も手首もあまりにもきゃしゃで、少しひねっただけで簡単にもげてしまうように思える。
そんな彼女が自分を必要とするほど過酷な戦いを挑んでいるのだ、と思うとなんとなく「平和」な方がいいような気がしてくる。
そのとき、ぱちぱち、と数回まばたきをしてリディアは身体を起こした。
「またちょっと眠っちゃったんだ・・・ごめんなさい」
うーん、と伸びをしながら屈託がない笑顔を見せるこの少女からは、本当に邪気を感じない、とバハムートは思う。
言葉はいつでも素直だし、何を話すときも目をそらすことがない。
その深い美しい緑色の瞳は、青き星の民らしい色だ、と初めて見たときから思っていた。。
「何も問題はない」
「ありがとう。また、毛布代わりになってくれたんだ。バハムートはリディアに優しいね。大好きよ」
「・・・」
よくわからない。
大好き、とこの少女は何度もバハムートに言うけれど、その理由は彼を戸惑わせる。
一番最初に聞いた「好き」の言葉は「力を貸してくれてありがとう。バハムート、大好き!」だったような気がするけれど、この数日間はそれとは違うことを言う。
優しいから、なんて言葉はあり得ない、とバハムートには思えてしまう。
幻獣と召喚士の関係を考えれば、召喚士は幻獣の力を評価すべきものだ。
優しい、というものは、幻獣神である自分がこの少女に評価をされるべきことなのだろうか?
「・・・もうすぐ、ゼロムスのもとに辿り着くな」
バハムートはリディアを岩の上に座らせてそう言った。
「えっ、やっぱりそうなの?そうじゃないかな、ってなんとなく思っていたんだ」
「明日明後日にでも最奥に到達するだろう・・・お前達と別れたフースーヤ達もテントを張りながらもうすぐ到達するようだ」
「バハムートはなんでも知っているのね」
それでも、「そんな力があるなら、ゼロムスを倒して来て」なんてことをこの聡明な少女は言わない。
幻獣界で育ったがゆえに、リディアは幻獣と召喚士の理を良く理解していた。
幻獣が召喚士のために力を発揮するのは、その召喚士が呼び出した場所でのことのみだ。
だから、リディアがゼロムスがいる場所まで辿り着かなければバハムートは何一つ力になぞなれはしない。
「早くゼロムスを止めないと・・・そしたら・・・私達の星は平和になるんだものね」
「・・・そうだな」
それがどういうことなのか、リディアはわかっているのだろうか?
彼女が言う「平和」というものになればバハムートを呼び出すこともないだろうし、何よりもこうやって月で逢瀬を重ねることもなくなるのだ。彼女は青き星に戻るだろうし、バハムートはこの月の洞窟でこれから先も青き星にいる幻獣達を見守り続けることになるだろう。
幻獣の寿命と人間の寿命は違いすぎる。
だから、出会いがあったとしてもあっという間に別れがくることをバハムートはいやというほど知っていた。
けれど。
そんなことを思った途端、バハムートの心の中に、彼らしくない苛立ちに似た気持ちが湧きあがってくる。
岩の上にちょこんと座っているリディアの前にバハムートは立った。それから、覗き込むように顔を近づける。
「もっと、顔をよく見せろ」
「えっ?なあに?」
「それから、もっと声を聞かせてくれ」
「バハムート、どうしたの?」
突然のことにリディアは戸惑ってバハムートが着ているローブを握りしめた。少女らしい小さな手。ああ、本当にこの生き物は小さくてかよわくてもろくて、そして柔らかくていい匂いがする、とバハムートは思う。それまでに出会った人間とはまったく違う、と彼の中では認識されていた。
バハムートは苛立ちを押さえて落ち着いた声でゆっくりと言った。
「まだ、早すぎる」
「何が?」
「今のままでは足りない。これではお前を忘れてしまう」
「えっ?」
何を言っているのだろう、とリディアは首をかしげてしげしげとバハムートを見上げた。
いまのままではたりない、これではわすれてしまう・・・?
小さな声で、バハムートが告げた言葉をオウム返しのように呟いた。
その思いもよらないリディアの反応に、今度はバハムートが戸惑う。
どういう意味か、と聞かれると思ったのに、リディアはただバハムートを見つめて何かを考えている様子だ。黙っていればバハムートが続きを話すと思っているのだろうか?けれどバハムートはリディアが次に口を開くのをひたすらに待っていた。
やがて、リディアはそうっと瞳を伏せて
「そうだよね。バハムートは、きっとわたしのことを忘れちゃうんだよね。幻獣神で、偉くって、他の幻獣のことを見てあげないといけないんだものね。リディアを、忘れちゃうんだもんね」
なんてことを言う。
「・・・」
驚いた。
予想外の言葉がリディアの口から発せられ、なんとバハムートは返事をしていいのかわからない。
まだ幼さを残した、それでももう大人の女性の仕草を見せるこの少女は小さく笑ってバハムートを見る。
「わたしは、でもバハムートのことは忘れたくないし・・・忘れないと思うよ?」
「・・・そうか」
「なんでかな、わたし、バハムートのことが大好きで仕方がないんだもの」
そう言うとリディアは嬉しそうに、目の前に立っているバハムートの胸に飛び込んで来た。
驚き、とまどいながら彼女の細い体を抱きしめ、バハムートはその柔らかい髪に触れながら聞く。
「何故だ?」
「わかんない。でも、一緒にいたいって思ってる。バハムートに初めて会ったときに、ああ、わたし、この人に会うためにたくさんのものを失って、月に来たんだって・・・そんなことを思ったの。思い込み激しいのかなあ?」
「・・・いや・・・」
それは彼女達がいうところの恋愛と違うことをバハムートは気付いていた。
バハムートだってリディアを初めて見たときに「出会った」と感じた。それは、以前に彼を呼び出すことを許可された召喚士に出会ったときには感じなかったほどの衝撃的な瞬間だった。
多分、幻獣神と、それを召喚することを許された、そしてきっと最高の素質をもった召喚士の一生に一度の出会いの瞬間だったに違いない。
(この長い生の中で、もう出会ってしまった。そしてもう別れてしまう。この先、わたしは何を待って生きればいいのだろうか)
彼女にとっても一生に一度で、そしてバハムートにとっても一生に一度の、生涯の運命の相手なのだと彼は気付いていた。
「違う。わたしは間違っている」
そう言ってバハムートは困ったような表情を見せた。
「なにを?」
きょとん、とリディアはバハムートの腕の中で彼を見上げる。
「・・・忘れるわけがないのに」


バハムートは、リヴァイサンみたいに誰かと結婚をしないの?
やがて、リディアはバハムートの腕の中からするりと抜け出して、座っていた岩の上にもどってから膝をかかえ、そんなことを聞いた。
その質問をうけてバハムートはあまりの驚きに即答が出来なかった。
「結婚?」
「うん。だって、リヴァイアサンとアスラは結婚してるんでしょう?」
「・・・」
本来幻獣には、そんな概念は、ない。
それは青き星にある幻界での便宜上のことだ。
リヴァイアサンの力は青き星にいる幻獣の中でも突出している。だからこそバハムートはリヴァイアサンに幻獣達を委ねてこの地に一人で生きることが出来るのだ。
あるとき、リヴァイアサンからの遠い呼びかけが聞こえた。
空間を越えて聞こえてくる幻獣の声にバハムートが答えることはほとんどないし、それを知っているがゆえにリヴァイアサンもバハムートには多くを求めず、自分が幻獣の王たるものであることにただただ忠実に生きてきた。が、リヴァイアサンのその声はいつまでも続き、そして終いには苦悩を含む色に変わっていった。これはただ事ではない、とたった一度バハムートが彼の呼びかけに答えたとき。
アスラを妻に迎えたい。
そんな予想外の言葉をリヴァイアサンから聞いた。
彼ら幻獣の中で大きな力をもつ者は半永久的な生命を今のところ得ているようだ。
命の定めは、まだ誰も知らない。
弱い幻獣は、同じ種族がいて、確かに伴侶を見つけて子孫を産む。
が、それは親子になるのではなく、いつの日か命が消えたときに、自分を転生させてくれる「親」を自分で生むという感覚が正しい。
弱い幻獣の命はまた、自分と同じ姿かたちの同じ種族の、自分が生み出した幻獣に還元されてまたこの世界に戻ってくる。
魂の継続方法は違うけれどどんな幻獣達も半永久的な命をもち、ひたすらに自分を求める召喚士だけを待ちつづけているのだ。
リヴァイアサンもアスラも強い個体だから、チョコボやボムのように自分の器を作り出す必要はない。
だというのに妻に迎えたいとリヴァイアサンは申し出てきた。
「幻獣はもともと、寄り添いあって生きるものではない・・・が、幻界では寄り添い合って生きることをみなが選んだ。何故かわかるか?」
「・・・ううん・・・わかんない」
「人間達が召喚士の力を恐れ、決まった周期で召喚士を殺してしまうからだ」
「!」
「そうすれば幻獣達は自分を呼び出す召喚士と出会うことが出来なくなる。わたしのように強い固体であればそれは何の苦にもならないが、弱い幻獣は召喚士と巡り合えないまま生を終えて一度消えていってしまう。・・・・それは、とても悲しいことなのだと、命が還元される瞬間に私やリヴァイアサンの心の中にそのものたちの声が飛び込んでくる」
「・・・」
「幻界には、弱い幻獣しかほとんどいなかっただろう?」
思い返せばシルフやチョコボ、ボムやゴブリンといった者達がほとんどだった。
実際リディアが呼び出す、大きな力をもつ召喚獣達は、みな、それぞれ一人で独立して生きていたように思える。
「その弱い者達を守りながら青き星に生息している幻獣達を統括するのがリヴァイアサンの役目だった・・・が、あまりに長い間弱い幻獣と共に幻界に生きていたリヴァイアサンは、人間の集合体の生活と同じ日々を送り、相当に人間に近い感情を持つようになったようだ」
「・・・うん、わたし、そう思ってた。リヴァイアサンもアスラも優しくて、あっ、でも時々は厳しかったのよ。お父さんとお母さんみたいな気がしていたわ」
小さくリディアは笑った。
彼女がこの冷たく薄暗い洞窟で微笑むだけで、まるで空気の色すら変わってしまうように見えるのは何故だろう?
「それをやつもわかっていて・・・だからこそ苦しんでいたのだろう。種族も違う、別々の個体である幻獣を愛する、などという感覚はわたしにはわからない。が・・・リヴァイアサンはそれを知ってしまったのだな」
「バハムートにはわからないの?」
「・・・ああ。わたしはすべての幻獣を同じように愛している」
「あっ、そう、そうね。それなら、いいんだ」
慌ててリディアはそう答えた。
「けれど」
続けてバハムートは静かに言った。
「わたしが選んだお前のことは、もっと別の場所で、愛していると、思う」
「もっと、別の場所って!?」
リディアは膝を抱えていた手を離し、ぶらん、と岩の上から足をぶらさげて身を乗り出した。
「・・・わからない。が・・・多分、この先もお前以外の者に、この感情を感じることはないだろう。お前だけだ」
「バハムート、それってさあー・・・。なんか、プロポーズみたいだねっ!」
「そうか?」
「そうだよ。うふふ・・・嬉しいな。生まれて初めてプロポーズされちゃった」
またも思いもよらない反応をリディアが返してくるのでバハムートはどう答えていいかわからない。が、やがて
「それを言うなら、お前のほうが」
「えっ、わたし、何か言った?」
「わたしに会うためにたくさんのものを失い、ここに来たのだとお前は言った」
「うん」
「それは、人間達のいう、その、告白というようなものに近いのではないか?」
「・・・」
リディアははにかみながら笑顔を見せて、ちょっとだけ首をかしげてバハムートを見た。
「わたしが幻獣だったら」
「ああ」
「バハムートと結婚しちゃうかも。だって、バハムートはたった一人でここにいるんだもの。わたし、知ってるのよ。あのお供の人達って本当はバハムートの翼で、バハムートの体の一部なんでしょ?」
「よく知っているな」
「わかるよ。おんなじ匂いがするし」
すとん、とリディアは岩から降りてバハムートの目の前に立った。
「もしも、一緒に生きられるなら、バハムートといたいなあ。そうしたら、バハムートは寂しくないでしょう?」
「・・・」
寂しい、という感情は知らなかったものだ。
あえていうならば、リディアがもたらしたものだとバハムートは思う。
彼女がこの地に来たことによって、その感情を得た。彼女がじゃあまた明日、と去っていく瞬間、体のどこかでぴりっとした痛みが走る。多分、それがそういうものなのだとバハムートは冷静に推測していた。
「結婚、か」
めずらしく苦笑を見せてバハムートはリディアを見た。
「お前となら、してもいいかもしれないな。たまには人間の風習に付き合うのも、悪くはないだろう」
「でも、わたしは」
幻獣ではないからここにはいられない。だから本当に結婚をすることは出来ない。
そう言おうとしたリディアの言葉を幻獣神は遮った。
「人間が誓う永遠よりも、もっと永遠に近い契約をお前を交わそう。それは、お前が人間で、私が幻獣だからこそ交わすことが出来る誓いだ」

時間がないことを彼らは知っていた。
それを感じているのは自分だけだとバハムートは思っていたけれど、リディアもまたそれを勘付いて、バハムートに対する気持ちを精一杯表したいと苦しんでいたのだ。
「今日」もきっとリディアは彼のもとに訪れるに違いない。
既に何度かリディアはバハムートを召喚していたし、その時その時の様子を見れば、昨日一昨日以上に地下渓谷の奥に進んでいることを感じる。
結婚という風習については彼にも一応知識があって、とりあえず神にむかって永遠の愛だかなんだかを誓うらしい、ということは把握をしていた。
が、それだけでは味気ない。
バハムートは生まれて初めて、人間の女性に対して「もっと美しい姿を見たい」などという欲求を自分が感じていることに気がついた。
そういった感情の動きに彼はとても素直で逆らうことがなく、すぐさまいつも近くに控えている付き人を呼んで、ハミングウェイ達の集落へ行くように命じた。
幻獣を生み出すことが出来る彼にとっては、身を飾るものをそこいらの大気中の成分を寄せ集めて加工して作り出すことは出来ない技ではなかったけれど、いかんせん生命がないものを生み出すには、それ相応のイメージが必要だ。
命があるものはその命に相応しい形で生まれてくるから楽なのだが・・・。
人間のものは人間に近い者達に任せるのが一番だ。
「バハムート様、お待たせいたしました」
「ああ」
「婚礼衣装というものをもってまいりました」
ごっそりとバハムートの前に色とりどりの布が山積みに置かれた。
こんな大量の衣類なぞ見たことがないな、とバハムートは数回まばたきをしてから呟いた。
「・・・これはまた、すごい量だな」
「やたらとはりきってくれて」
「何をだ」
「バハムート様のご婚礼を祝いたいと」
「・・・別に、人間達の婚礼をあげるわけではないが」
とはいえ。
唯一月に生息している人間であるハミングウェイ達に対してバハムートは好意的だしハミングウェイ達も好意的だ。ハミングウェイ達の美しい音に敬意を表して、バハムートが彼らの洞窟にモンスターを近寄らせないように結界をはっていることをハミングウェイ達は知っているのだ。
「これこそ、生涯で最初で最後だろうな・・・人間達の道楽にも似た儀式に付き合うなぞ」

「わあ!素敵っ!すっごい、綺麗〜!いいの?いいの?いいの?どうしたの、これっ」
リディアは驚いて叫びながら、バハムートがぽい、と無造作によこした衣類をあれもこれもととって見ていた。
「うふふ、なんか不思議ね。わたし、本当にバハムートと結婚しちゃうんだあ?ね、ね、バハムート、どれが似合うかなあ?」
「・・・わからん」
それはとても正直な言葉だ。
真っ白なドレス、たくさんの色の糸を織り合わせたドレス、何枚もの変わった形の服を重ねるらしい服や、上下のセットになっているもの、あまりに大量の衣類に、バハムートは辟易した。
どれでもいい。
リディアに似合うのならば。
そう簡単に思うけれど、似合う似合わないなどの良し悪しが実はバハムートにはよくわかっていない。
リディアは少し変わった、「ドレス」と呼ばれるものとは少し異なる服を自分の体にあててみた。
「うーん、これにしよっかなあ。ね、これ、対になっているこの服、バハムートにも似合うと思うの。男の人用もあるのってこれだけみたいだから、これにしたいなあ」
「・・・何?」
ぴくりと眉を動かしてバハムートは重々しく聞いた。それへまったく悪気がなくリディアは
「だって、バハムートも着てくれなきゃ!」
「・・・・」
それに何の意味があるのか正直なところバハムートはよくわからない。
「きっと似合うもの。わたし、見たい。ね、着てみて!」
とはいえ、人間のように着替えをする、ということなんてバハムートは今まで行ったことがない。
「この布で身体を覆えばいいのか?」
普通の人間が聞いたら、なんて素っ頓狂なことを聞くのか、と驚くような言い回しで静かにバハムートはリディアに聞いた。
「うん。そうよ。だって、結婚式ってお婿さんもお嫁さんも素敵な服を着るんだってローザが教えてくれたもの。わたし、バハムートが着てるの見たいなあ。わたし、誰かとおそろいの服を着るなんて初めて」
どうやら自分がその衣類を身につけることでリディアは喜ぶらしい。
バハムートにはそれだけが理解できた。

◆Side A:あかねさんのバハリディへ
◆Side Y:よもぎさんのバハリディへ

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