あなたのとなりに-1-

裏切りという言葉。
それは自分のためにある言葉のような気すらしていた。
自分は確かにローザを愛していて、セシルを認めながらも妬ましく思っていた。
醜い感情の行く末が裏切りになってしまったことを、カイン自身が一番よく知っている。
そして、だからこそ、彼が裏切った人々にまた受け入れられることが、あまりにもつらくてせつなくて。
多分。
リディアがいなかったら、耐えられなかったのだろうな、とカインは試練の山の頂きで空を見ていた。
いつでも自分を庇ってくれた、あの少女。
時折「俺はリディアが思っているような人間じゃない」とその純真さを踏みにじりたくもなったけれど、いつだって自分は彼女に降参していた。
だって、あんな風に、まっすぐ見つめられたら。

「み、み、み、みつけたああーー!」
「!」
聞き慣れた声。
カインが驚いて振り返ると、そこにはパロムとポロムを引き連れたリディアがいた。
「なっ・・・なんで、ここに・・・」
「それはこっちが言いたいよお!ねえ、どうして誰にも何にも言わないでこんなとこにいるの!?」
「どうやってわかったんだ」
それへは自慢そうにパロムが答える。
「みくびってもらっちゃ困るぜ!」
あわせてポロムも笑顔で続けた。
「この前カインさんがミシディアの町で食糧買い込んでるのをみかけましたの」
「・・・そうか」
「バレないように魔導士のローブを着ていたみたいですけれど、女のカンは鋭いものですわ」
「なーにいってんでい!俺が最初に見つけたんだろっ」
「あら、パロムは、背が高い魔導士がいる、って言ってただけじゃないのっ。カインさんだって気付かなかったんでしょっ」
「だ、だ、だってそんなに会った事ないからさあー」
「わたしは一目でわかったもの!」
「へっ、顔のいい男ばっかり覚えてるんだろっ」
「ち・が・う・わ・よっ、パロムと一緒にしないでよっ」
とりあえず二人のやりとりからわかったのは、カインは自分の居場所がどうしてばれたのか、と、どうやら自分は「顔のいい男」とパロムに思われているらしい、ということだ。このちょっとませた双子の会話は案外と面白いな、と顔がほころびそうになったカインにリディアがおずおずと声をかけた。
「この前ね、カインを探しに、ミシディアに来たときに、二人にお願いをしておいたの・・・どこかでカインを見たら
教えてくれって」
「俺を探しに?」
「うん」
ようやくカインはリディアの姿を上から下までしっかりと確認をした。
新しい服は、やっぱり彼女が好きな緑色だ。レオタード調の服の胸元から首の後ろに回してリボン状に結ぶ布がついている。軽い素材のローブを上に羽織って、新しいけれど決して華美すぎないリディアらしい格好だとカインは思う。髪につけた髪留めは以前からつけているものだったけれど、ずっと試練の山にこもっていたカインにとってはそれすら豪奢な細工に見えてしまう。
それよりなにより。
カインが驚いたのは、リディアの爪にうっすらとした綺麗な桜色がのっていることだった。
ああ、そうだな、女の子だものな・・・
一体誰に教わったんだろう。自分が試練の山に篭っている間、リディアは幻界にいき、それからバロンに戻って生活をしていたのだろうから、ローザに教わったのだろうか?
「何故俺を?」
「だってカインのことが心配で」
「俺が何かリディアに心配されるようなことがあったのかな」
「・・・カイン、ひどいよ。だって」
「なんだ」
と、みるみるリディアの表情は歪んだ。
泣いていない。でも、それを堪えているのだということはカインにもわかる。
少しの間、パロムもポロムも、ただならぬことだと思ったようでしん、と静まり返った。
じっとリディアの言葉を待っていると、なんとか彼女は涙を止めることに成功したようで、カインを正面から見つめて言う。
「カインが、言ってくれたんじゃない・・・探そうって。どこか、一番、暮らしやすいところを探そうって」
その言葉は。
カインは苦笑をするしか、答えを返せなかった。

あの戦いの中、自分は何一つ、リディアの母親を殺してしまった償いをすることは出来なかった。それどころか裏切り、足をひっぱり、そしてそれゆえに出来てしまった深い遺恨を逆にリディアは何もかも許して、エッジとの間の溝すら埋めようとしてくれた。その彼女の優しさや無邪気さは時にカインを逆に傷つけることもあったが、一層彼にとってリディアは償うべき、守るべき対象として大切な人間になっていった。もちろん、そんなことは誰にも言ってはいないけれど。
だから、そんな期待させる言葉をリディアに言ってしまった。
戻るべき村がないリディアが、戦いの後にどうする気なのかカインは気になっていた。
聞けば、とりあえず幻界にいくけれど、と曖昧な答えを返す。
ミストの村が復興したらそこに住むのか、と聞けば、それはないとリディアは答えた。
あの日の夢を見そうだから、まだ、あの土地には戻りたくない、と。
その答えはあまりにも悲しくて、カインは不意にリディアを抱きしめてしまったことを覚えている。
泣いている子供をなだめるように、なんだか悲しい表情をしているリディアを放っておけなくなってしまったのだ。
「カイン?」
そういったスキンシップは決してそれまでカインはリディアに対してしなかったのに。
驚いて腕の中で身をすくめる暖かい動物の体温は、思ったよりも高かった。
「すまない・・・大人になったら、忘れられる、なんて、そんなわけはないのにな・・・心ないことを言った」
「そ、そんなことないよう。だって、当たり前だもん。故郷の村が復興すれば、誰だって故郷に戻るよね。カインはとっても普通のことを言っただけなのに」
ちょっとだけリディアはカインの腕から抜け出ようともぞもぞと動く。
それがなんだか、犬や猫が困っている風情に似ていておもしろく思えて、カインはちょっと腕に力を入れて意地悪をした。
「むむう・・・カイン、離してよおー」
困ったようにリディアは足をたんたん、と踏み鳴らした。その反応を堪能してからカインはちょっと力をゆるめて
「リディア、俺と一緒に、探すか。暮らしやすいところを」
と、問い掛ける。
その言葉は、本気だった。カインは他にもう償う方法を見つけることは出来なかったし、それにそれはリディアにとって必要なことだと思えたから。
「えっ?」
「俺はセシルと違ってバロンにはもう何の肩書きもない男だ。セシル達のことは好きだが、まだ自分がやってしまったことを考えるとバロンに留まる気はない・・・どこか他の町で当分暮らそうと思っている」
セシル達を何度も裏切ってしまったカインがバロンにいづらい、ということをついついカインは口走ってしまった。
それが完全な失態だったことをその時は気付かなかったけれど。
「きっと俺にとって暮らしやすいところとリディアにとって暮らしやすいところは違うだろうけれど、どうせ探すなら、一緒に世界を回った方がいいだろう?」
なんだかそれは少し、プロポーズに似ているな、と思ってあまりの自分らしくなさにカインは苦笑をみせる。
それに対して
「・・・じゃあ、まだ、カインとはお別れしなくてもいいのね?一緒にいられるのね?」
リディアはカインの腕の中で抵抗をやめて、彼を見上げて小さく笑った。
ああ、この笑顔に俺は今まで何度も救われたのだ。
愛しいな、とカインの心はそんな言葉を見つけたけれど、彼は見て見ぬふりをしていた。

そんな約束を忘れたわけではない。忘れようと思ったって、忘れられるわけがない。
けれど、カインはリディアを放って一人で試練の山に登った。
もちろん理由がないわけではなかったけれど、それをあえてリディアには説明せずに姿を消してしまったのだ。
「ああ・・・覚えている」
カインはふう、と溜息をついた。
また裏切ったのだ、とリディアに思われ続けてもよかったのに、彼女はそれを許してくれないようだ。
「じゃあっ、なんで、わたしのこと置いていったの・・・?」
「バロンで、暮らしているんだろう?」
「・・・え?」
「セシルとローザが、用意してくれたんだろう。リディアが住む場所を。知っている。リディアは逆に・・・俺に対して償いをしようと思って、俺の言葉を受け入れたんだろう?」
「・・・」
そのカインの言葉に心当たりがあったようで、リディアは一瞬息を呑んだ。
何のことなのかまったくわからないパロムとポロムはそーっと音をたてないように二人そろって後ろに下がっていった。
視界の隅にその姿が映るけれど、カインは咎めるいわれもないから、そのまま放っておくだけだ。
ここまで言えばリディアもわかってくれるのではないか、とカインも目をそらさずリディアを見る。
と、リディアはカインを見たままで、先ほどまではなんとか堪えることが出来た涙を今度は堪えもせずに両目に貯めた。
それから子供が泣き出すときの状態へとみるみるうちにリディアの表情は変化していった。
「バロンで、暮らしてなんかいないよ・・・カインのこと、探してたんだもん」
「セシル達が」
「だって、カイン、まだお別れしなくていいって、いったじゃない!だから、わたし、まだいっぱいカインに言わなきゃいけないことをとっておいたのに。勝手にいなくなっておいて、ひどいよっ。バカーっ!嫌い嫌い嫌い、もおー、チョコボっ!」
「お、おい!?」
最後になんだか不思議な言葉が混じったぞ、と思った瞬間、そこにチョコボが現れた。
まさかこれだけの言い争いでチョコボキックをもらってしまっては割があわない、とカインが警戒すると、チョコボはリディアのローブをぱくりと口にくわえて、まるで干された洗濯物のようにひょいとリディアをもちあげるとその背中にリディアをのっけた。
「リディア?」
「うわーーん!」
豪快な泣き声をあげるリディアをのっけて、チョコボは試練の山の頂きから俊足で走り去ってしまったのだった。
「まあ、早いわね、パロム!」
「すごいなあ、ポロム!」
驚いたときなどにお互いの名前を呼ぶのはこの幼い双子達の癖だ。
「こら、リディア!!言うだけ言って逃げるな!」
そんなカインの言葉はもはやチョコボにもリディアにも届いていない。一体いつから呼び出した幻獣を手なずけて好きに使えるようになったんだ、とカインは頭を抱えた。が、考えてみればあのチョコボはリディアが幼い頃からずっと呼び出せた召喚獣だ。
心が通じ合っても不思議はないのだろう。
「ってなわけで、あとは勝手にやってくれよ!帰ろうぜ、ポロム」
「ええ、そうね、パロム。それじゃあカインさん、ご機嫌よう」
「あ、ああ」
と阿呆のような相槌しかカインはうてない。パロムがポロムの手を握った、と思ったら
「テレポ!」
二人はあっさりと試練の山から姿を消したのだった。

カインは月の地下渓谷で、セシルとローザの会話を聞いてしまった。
もうすぐ最奥地点に達する、というその日、いつも眠りが浅いエッジですら疲れのためにテント内でめずらしくいびきをかきながら寝入っていたし、リディアは相変わらず子供のようにすうっと深い眠りにはいっていったようだった。
火の番をしていたカインのもとにセシルがやってきて交代をしよう、と声をかけてきた。
そのときに、セシルはこの戦いが終わった後のリディアのことをカインに相談をしたのだ。
身寄りもなく帰る場所がないリディアを幻界に戻すなんてことは考えていない。けれど、彼女はまだ居場所がないのだ。
「バロンにつれていって、僕とローザが面倒を見ようと思って。カインも助けてくれるだろう?」
そのセシルの口ぶりでは、カインがバロンに戻らない、という可能性をこれっぽっちも考えていないのだ、と思える。
「バロンに、か」
リディアは幼いときにはセシルに淡い恋心を抱いていたのに、それに対する配慮はないのだろうな、とカインは苦笑をした。
「どこで生きるかはリディアが決めればいい」
「僕もそう思っていた。でも・・・何かのとき、彼女を保護したいと思うんだ」
「何かのとき?」
「うん」
この戦いが終わっても、人間というものはいつ戦争をまた起こすかわからない。
そんなことになれば召喚士を利用しようと目論む人間が現れないとは言い切れない。
その可能性についてセシルは懸念しており、自分達が近くにいることで少しでもそんな嫌なことが起きないようにしてやりたい、というのが彼に主張だった。それは彼なりのリディアへの思いやりと償いだったのだろう。
カインは最後までセシルの話を聞くと、あっさりと答える。
「それは、リディアと相談してくれ」
「うん・・・悪くはない考えだと思うけれど、どうだろう?」
「そうだな。正直、そこまでのことは考えていなかった・・・」
それはカインの本音だ。まったくそんなことは失念していた自分を少し情けなく思うのと同時に、そういう懸念でリディアのこれからの人生を多少拘束してしまうことはどうだろう、と心のどこかで否定的になっていることにも勘付いていたけれど。
選ぶのはリディアだし、自分は何も無理強いはしたくないと思う。
彼女が彼女らしく生きることが出来る場所があるならば、それがどこでも構わない。
ただわかっているのは、幻界に行きそして戻ってきて今までの間、リディアは常に誰かと共に生きていたということだ。
仲間に囲まれて、朝起きれば誰かが側にいて、夜眠るときも誰かが側にいて。
そのことを考えれば、バロンに無理にでも留まらせる方がリディアのためにはなるのだろう。
セシルに火の番を任せてテントに戻ってから、カインはそのことについて考えていた。
やはり、それがリディアの幸せなのかもしれない、と。
バロンにいる限り、セシルやローザが彼女の面倒を見てくれるだろうし。
どれだけ時間がかかっただろうか。カインは身動きしないまま、それでも寝付かれずにいた。
やがて、そうっとカインの側を通り抜けて、先ほどまで寝ていたはずのローザがテントから出て行くのがわかった。
カインは息を潜めて、テントの外の音に耳をそばだてる。
運がいいのか悪いのか、カインはテントの出口あたりに寝ていたから、セシルとローザの会話の端々を僅かながらに聞くことが出来た。
「リディアは、カインのこと・・・」
何?
あまり聞こえないけれど話の内容は自分とリディアのことらしい。
「自分が、あのときタイタンを呼ばなければ、カインと僕が別れることはなかったと・・・」
何故そんな昔の話が出ているのか、カインにはわからなかった。
いっそのこと飛び起きて、「何を話している」と聞いてしまえばいいのだけれど、セシルとローザが二人で話しているところに出て行くのはいささか勇気が必要だった。
セシルの語尾が小さくなって彼が何を言ったのかはあまり聞き取れない。
ローザは声を潜めているけれど、テント側に座っているのか、ささやき声でもなんとかカインに聞き取ることが出来た。
「でなければ、ゴルベーザに操られなかったんじゃないかって、思っていたのよね」
ああ、あの話か。
カインは溜息を軽くついた。
薄々わかっていた。
ミストの村を焼き払ったときにリディアが呼んだタイタンのせいで崖崩れがおきて、セシルとリディアは砂漠側に吹っ飛ばされたけれど、カインはバロン側で意識を取り戻した。
あのとき、一緒にいることが出来たら、カインがこんな風にゴルベーザに利用され、セシル達を裏切って、そしてそのことで心を痛めることもなかったのではないか、とリディアは思っているのだ。
それは、ほんの一端に過ぎないから、リディアが気に病む必要はまったくないとカインは思っていたけれど。
「リディアがカインのことをそういう風に」
セシルの声。ああ、もしかして。
そこでやっとわかった気がした。
一緒に、探そう、と俺はリディアに言った。
リディアのために、と思って申し出たことだったけれど、リディアにとっては。
俺が一人で居場所を探すことを哀れんで、申し出をうけたのかもしれない。
ならば、それはあまりいいことではない。
カインはごろり、と寝返りをうった。
リディアが、幸せになれるように。自分にとっては、それが最優先事項だ。自分のことに煩わされてリディアが彼女自身の生きる道を間違えてしまっては彼女も困るしカインだって困る。
だって、本当に、あの少女が幸せでありますように、と柄でもないことを自分は思っているのだから。

「リディア」
カインは、試練の山の中腹で、座っているチョコボにもたれかかってまだぐずぐず泣いているリディアをなんとかみつけた。
「泣き止んだか」
「・・・まだ、だもん」
顔を見せたくない、とばかりにぱふ、とリディアはチョコボの羽根の間に顔をうずめてカインを見ようとしない。
それを無理矢理肩を掴んでカインは強引にチョコボからリディアをはがした。
「きゃっ!」
「・・・くっ・・・」
泣いていたリディアの顔にはチョコボの羽根が何枚もはっついていて、見るも無残な状態になっている。
そこは笑うべきところではないが、カインはあまりにその様子が可笑しくて声を漏らしてしまった。
「もう、カインったらひどい!泣いてるときくらいそうっとしといてよお〜」
「はは・・・いや・・・放っておくといつまで泣いておくかわからないからな」
「もお!」
「俺は、セシル達と違って、リディアを泣き止ませるのは得意じゃあ、ない」
そういいながらカインはまだ泣いているリディアの顔から、丁寧にチョコボの羽根をつまんでとってやる。
リディアは目を閉じていい子になって、カインにそれを任せた。
「・・・とれたぞ・・・どうせ、泣かせるなら、泣いているうちがいい」
「・・・なあに?」
そっと目をあけてリディアは不安そうにカインを見る。
「リディアは、バロンで暮らせばいい。俺に同情をしたり、償いをしようとして、わざわざ旅に出る必要なんかない・・・でも、そんなことをリディアに言いたくなかった。だから、一人で、リディアに何も言わないで逃げた」
きっとリディアに言えば、同情じゃない、とか償おうとしてるんじゃない、と必死に弁解をするのだろう。
そんなリディアを見たくは無かった。
彼女の笑顔で、セシルもローザも、そして自分も何度も救われた。リディアが悲しい気持ちになるところを誰もが見たくないと思っている。
嘘つき、と思われたって、多少がっかりさせたって、居場所をセシル達が確保してくれて新しい生活が始まれば、そんな約束もきっとリディアは忘れるだろうとカインは思っていた。「あのとき、カインはこういってくれてたのに」と時折思い出すことがあっても、「でも、カインだから」と裏切り者でいればそれでいいと考えていたけれど。
「なのに、どうしてこんなところまで」
「どーしてカインは、わたしが言うこと全然聞かないで、勝手にほいほい話を決めちゃうの?」
「うん?」
「そりゃあ、ちょっとは、思ってたよ。カインだけ一人でどこかにいくなんて可哀相だって・・・でも、違うもん。そうじゃないもん。
わたしが、自分で決めたことだったのに」
「何を」
「カインと一緒に行こうって。二人で住むところ、見つけるって」
「・・・・あれ?」
その言葉にちょっと語弊があることにカインは気付いた。
「二人で住むところ・・・?」
「ち、ち、違うのっ!?」
かあっとリディアは泣いたせいではなく、あせりのために頬を紅潮させた。
「わ、わたし何か間違ってた!?」
「いや・・・その・・・二人で探そうとは言ったけれど、二人で暮らそうとは・・・・」
「・・・!・・・」
リディアはますます顔を真っ赤にして、またチョコボにぼふっと顔をうずめた。
クエッ、と驚いてチョコボが声をあげる。召喚獣も、普通のチョコボと同じ声で鳴くのか、とそんなことをカインは驚いてみたり。
「・・・おい、リディア」
「ごごごごめんんさいっ!勘違い!わたしの、勘違い!だからあ、そのっ・・・わたしが、何かカインに嫌われるようなことをしちゃったのかと思って、それで、それで、そうだったら謝らないといけないと思って・・・だから・・・」
ぎゅう、とチョコボにしがみつく。もぞもぞとチョコボは困ったように座り直して、更には何かをいいたげにカインを見つめる。
そんな目で鳥に見られても、とカインは溜息をついた。
「リディア」
「ごめんなさい・・・わたし、バカみたい・・・」
「リディア」
「違うことで謝らないといけなくなっちゃったね・・・」
「あのなあ」
リディアはそれでも顔をあげずにぼそぼそと反省をしている。
「でもね、カイン、わたし、わたしね、確かに・・・ちょっとは、カインが言ってるみたいに、責任感じてたの」
「うん」
「わたしが、ミストの村で、タイタン呼ばなかったら、きっとカインはゴルベーザに」
「その話はもういい」
「・・・違うの。最初はそう思ってたんだけど・・・でも」
がばっとチョコボから顔を離してリディアはカインを見た。
「でも、もしかしたら、あのままカインも一緒に旅をしていたらまた色々と違ってきて・・・リヴァイアサンに会えなかったかもしれないでしょ?そしたら、わたし、今でも小さい泣き虫な女の子だったと思う」
今でも十分泣き虫だ、といいたかったけれどカインはその言葉を抑えた。
「そう思ったら、カインには凄く悪いけどっ・・・償いとかそういうのって・・・あんまり口にしたくなくて・・・今は、わたし、時間を速く使って大人になってしまって・・・そのお、カインと、ちょっとは釣り合う年齢になったじゃない・・・そう思ったら、昔の悪かったことだけを見るのはやめたいって思えて」
「釣り合う・・・?」
ますますもってよくわからない、とカインは眉根を寄せてリディアを見た。
困ったように、リディアはちょっと目をふせて
「わたし、カインのこと、好きなんだもん」
チョコボの羽根だらけの顔で、そう呟いた。

人間、驚きすぎると本当に声が出ないのだ、とカインは初めて知った。
一体今リディアは何を言っていたのか、カインは冷静に思い出すことすら出来ない。そしてようやく搾り出した声もなさけない意味のない問いかけだった。
「えっと・・・リディア・・・?」
「すっごく、悲しかったんだから。カインがまたゴルベーザに操られて、土のクリスタルもってっちゃって・・・戻ってきたと思ったら、3人だけで月にいく、なんていいだして」
「・・・」
「みんな、ローザがセシルと離れたくないから無茶してついていっただけって思ってたんでしょ。わたしだってさ・・・」
顔を真っ赤に火照らせながら言い訳のようにリディアはもごもごと言う。
「やっとカインが戻ってきてくれたのにっ、一緒に行けないなんて、嫌だったんだもの!」
いくら考えても心当たりがない、とカインは焦った。
自分とリディアが一緒にいた期間なぞ、そう長くはないはずだ。
でも。
「・・・そうだったのか」
エッジは操られていたカインに対して明らかに不信の念をいただいていた。
それは、エッジが仲間になって間もないから、という理由があったからで、当たり前のことだと思う。
セシルとローザはもともと幼い頃から一緒にいた仲間だ。
ではリディアは?
今まで彼女が自分に対して与えてくれた優しさが、恋心から来るものだと思えばすべて合点が行く。
信頼関係を築くにはカインとリディアが一緒にいた時間は短いけれど、エッジのように不信を抱くほど遠い間柄ではなくて。
かといって、リディアにとってはセシルとおなじく自分の母親を殺した仇であるから、いくらもう仲間になっているセシルとローザの幼馴染だからと無条件に心を開けるわけでもないはずだ。どんなに彼女が無邪気な子供らしさを残していても。
なんてことだ。カインはぺたん、とそこで座り込み、リディアをまじまじと見つめる。
今まで自分を助けて、手を差し伸べてくれたこの少女のその気持ちが、自分への恋心から始まったものだとはこれっぽっちも考えてはいなかったのだ。
「迷惑、だよね・・・だから、そのお、わたしきっと、舞い上がっちゃって、カインが言ってること間違えて聞いたんだと思うの」
「・・・そう、か」
「カインも、わたしのこと、好きでいてくれたのかと思って・・・わたし・・・。それで、だから、あのとき、抱きしめてくれたのかと」
まいった。
悪いのは、やっぱり自分の方だ。
カインはふうー、と息をついて、自分の顔を手で覆った。
「何で俺を」
「そんなの、わかんないよ!」
「でも」
「気がついたら・・・好きだったんだもん・・・」
「それで・・・俺を探して、こんなところまで来たのか」
「うん・・・」
手を外して、カインはリディアを見た。
リディアは泣きはらした目で、カインをじっと見つめる。自分が思っていることは全部カインに伝えたい、という気持ちがその表情から伝わってきた。
「バカだな、リディアは・・・俺なんかを」
「だって」
「・・・そうか・・・そうだったのか」
「幻界に戻ったけど・・・カインにどうしても会いたくて・・・」
ああ。降参だ、とカインは苦笑をした。一度は彼なりに彼女の幸せを考えて逃げてしまったけれど。
多分あの話をした日。
ついついリディアを抱きしめてしまったときから、もう、カインは彼女に勝てやしないのだ。


Next→



企画TOPにモドル

・・・すみません、カイソさん企画(??)長くなっています。あんまり、ゲーム後の話、とかかくのは好きじゃあないんですが・・・。
必然性のないカップルをくっつけるのってこんなに面倒な手順が必要だったんですね。
「リディアはカインが好きだった」「カインはリディアが好きだった」「だから二人は付き合いだした」
とかいうバカ小説の方がよかったですか!?(涙)
カインさんがゲームではクールだってことをこの企画が始まってからはじめて聞きました。知りませんでした。
だって、ただの頭がちょっと弱い人だと思っていたんで・・・。大好きなんだけど(笑)そうか、あれはクールだったんだ!
全国のカインファンのみなさん、すみません・・・。うちのカインさんちょっとぼんやりしている人なんです・・・。