心の音-1-

目が覚めたら、もう太陽は高く昇っていた。カーテン越しでも入ってくる日差しは強く、それでエッジは起こされた。
こんなに深く眠ったのはどれくらいぶりだろうか。もしかすると魔導船の回復シェルターで体を休めて以来のことかもしれない。彼は痛む頭を抑えて、上質なバロン風のベッドからごそごそと降りた。エブラーナにはないような、体がやたらと沈むベッドは正直なところあまり彼の好みではない。
さすがにエブラーナの王子を招待する、ということで大層豪奢な部屋をセシル達は用意しておいてくれていた。
それのどれもこれも彼には不似合いなこと甚だしいけれど、国としてはこういう形式が大事なんだろうということぐらいエッジにだってわかる。
「だりー・・・」
昨晩は、飲みすぎた。
忍者たるもの、前後不覚になるまで酒を飲むなんて真似は出来ないから記憶はおおよそ残っているし、身を守ることが出来るくらいには彼の体も動く程度ではあった。
それでも最近の激務に疲れた体は眠りについた途端に音をあげたらしく、めずらしく彼は体が重いことに気付く。
セシルとローザの結婚式に集まった人間は誰もがみな大騒ぎをしていたし、エッジもそれに漏れなく便乗し、挙句には久しぶりに会ったシドと肩を並べて飲み比べしてしまった。本当に心から楽しくてついついやりすぎた。けれど
「ちっくしょ・・・ろくに・・・」
リディアと話せなかった。
ち、と舌打ちして部屋に用意されてあった水差しを手にとり、グラスに水を注がずそのまま口をつける。
思い出すのは再会したリディアのことだ。
幻界に一度戻った彼女と再会出来たことも嬉しかったし、何より。
別れた頃よりも髪は伸びていて、そして僅かに仕草も女性らしくなっているようにエッジには思えた。それでも少女めいた雰囲気はまったく変わっておらず、相変わらず子供っぽさが残る話し方。
どれもこれもなんだかエッジを嬉しくさせてくれて、だからこそついつい酒も進んでしまった。
「っちゅうか・・・あいつ、まだいるんだろうな」
そういいながら服を探して、エッジはびっくりした。
「・・・うっわあ、マジかよ。バロンって国は・・・相当に豊かなのか、阿呆なのかのどっちかだな」
ゲスト用の服まで用意してあるなんて。
籐の籠にはいっている服を見つけてエッジは呆れる。しかも、どうみたってきちんとエッジ用にそろえたものらしくサイズも好みもぴったりだ。こんなことをしてくれる人間には一人しか心当たりがない。
(違う、阿呆は俺か・・・)
昨日の服は寝床に入る前に脱ぎ捨てたままだったし、それだって酒くさいに決まっている。
多分そうなることを見越して前日から用意されてあったのだろう。
エッジは無造作にその服を着込んで、昨晩同じようにバロン城に泊まっていたはずのリディアを探しに行こうと扉に近づく。
それから精巧な仕組みで張り巡らせた忍者特有のトラップを手早く外して、眠っている間に侵入者がいなかったことを確認する。
普段はそんなことはしないけれど、必要以上に酒を飲んだときには無意識にそれをやってしまうほど身についてしまった習性だ。
いつもは浅い眠りだからわざわざそんなものを用意しなくたって問題はないが、酒を一定以上に摂取したときはやはり深く眠ってしまう。細い目に見えない糸をくるくると指に巻いて小さくまとめて片付けた。
「うん・・・?」
扉を開けると、はらりと何か紙切れが落ちる。何だろう、と拾い上げて見ると
”リディアに嫌われたくなければ湯浴みをして行きなさい。女中に頼んでありますから”
なんてことが書いてある。
こんなことをしてくれる人間にも一人しか心当たりがない。
婚礼の儀が明けた今朝から、バロン城下町にパレードに赴いているはずの、バロン新国王妃は、相変わらずのマメさ加減を発揮しているようだ。

さて、その頃リディアもまたローザが用意しておいてくれた可愛らしい服に身をまとって、とっくにバロン城を後にしていた。
城下町でのセシルとローザのパレードも見たし、リディアにはこれから行くところがあった。
重い大きな荷物をかかえてよたよたと歩きながら、リディアはめずらしく独り言をぶつぶつ言っている。
「んもー、エッジのバカあっ!」
折角久しぶりに会えたのに。
今朝は何度扉を叩いてもエッジは起きてくれなかった。よほどよく眠っていたのだろう。
確かにそうだ。あれだけセシルとローザの結婚式で酒をかっくらっていれば。
「シドのおじちゃんも、飲ませすぎなんだからあ〜」
それでも、シドだって嬉しかったことをリディアは知っている。
エッジは手先が器用だし、あのとおり口は悪くてちょっと短気だけれど、もともとは真面目で民衆の信頼も厚い男だ。
シドとエッジは口先でなんといって喧嘩をしていようと仲がいい。シドがちょっとおだてたりつついたりするだけでエッジも熱くなるし、エッジがまるで同年代の友達をからかう口調でシドに声をかければシドだって「ワシはまだまだ若い!」と調子にのって張り合おうとする。もしかして、エッジがエブラーナの王子でなければ、シドはエッジを弟子にしたかったのではないだろうかとリディアですらわかるほどだ。
でも、それとこれとは、別だ。
(でも、昨日は・・・嬉しかったな)

セシル達の婚礼の儀でバロン城の大広間でリディアを見たエッジは一瞬動きを止めて、少し照れくさそうに笑った。
「よう、元気そうだな・・・その、なんだ・・・よく似合うじゃねえか」
「ローザがね、用意してくれたの。ほら、わたし何もないから・・・」
「ああ、そうだな・・・いいぜ、なんか・・・ちっとは女らしくなったんじゃあねえの」
「本当っ?わあい、嬉しいな」
「その喜び方は、まだまだガキだけどな」
ローザが用意しておいてくれたのは薄緑のサテンのミニドレスだった。適度に肉がついている形がよい足は、今までエッジが見たことがないちょっとだけ踵が高いリボンで編み上げる銀色の靴が引き立てていた。
お祝いにいく側が服を用意してもらうというのも恥ずかしい話だったけれど、幻界にいるリディアは何一つそういった服も金も持ってはいない。セシル達と別れるときに、全員でわけた金だけがリディアの全財産だった。
ローザの好意に甘えたものの、自分に似合っているのかどうかも不安だったし、そういう公の場を知らないリディアは気恥ずかしかった。
そこにエッジが来てくれたことはとても嬉しくて。
しかもエッジだって、今までリディアが見たことが無い装いで、一国の王子にふさわしい服を身にまとっていた・・・とはいえ、きらびやか、というものとはまた違う、とリディアは思う。
お祝いごとだというのに黒を基調にした彼の服は、エブラーナ特有の布で銀色の糸が繊細に織り込まれている。首にも手首にもたくさんの装飾品をつけていて、そしてそれが似合う、とリディアは思う。
たくさんの花が並べられているテーブルについて、エッジはリディアと並んだ。
「お前、幻界が余程居心地がいいのかよ・・・連絡も、なしで」
別れるとき、エッジはリディアに「思い出したら、連絡しろよ」と言ってくれた。幻界に戻ることを無理には止めなかったし、絶対にエブラーナに来い、とも言わなかった。
ただ、俺を思い出したら、連絡をしろ、いつまでもなかったら、俺の方が会いにいっちまうかもな。
それだけが彼らの約束だった。
エッジはリディアと自分の関係が、完全に恋人同士でも完全に他人同士でもないことを知っていた。彼のほうはいつでもリディアを迎え入れたいと想っていたけれど、そうするにはまだリディアのエッジに対する恋心は幼いのではないかと危ぶんでいたのだ。
それをそうだとリディアに伝えることは決して彼はなかったけれど・・・
「だって、連絡っていったって・・・どーしていいか・・・」
わからなかったんだもん、と言おうとしたリディアの声は人々の歓声でかき消された。
エッジも「うん?なんだって?」とリディアの方へ耳をよせた。が、丁度そのとき主役であるセシルとローザが姿を見せ、そこにいた人間は申し合わせも何もなく自然とみな拍手喝采を贈る。エッジもリディアもはっとなって気が取られ、その話はそれきりになってしまったのだが・・・。
「わあ!ローザ綺麗!セシルもすっごいかっこいいねえ〜」
リディアは興奮してエッジに叫んだ。それへエッジも頷き返す。
確かに、こんなに綺麗なローザは見たことがない、とエッジも感じた。衣装は確かにかなり豪華なものだ。けれど、そういう表面上のことだけではやはりないのだろうな、と思う。
(そりゃそうだな。追っかけて追っかけて、やっと手に入れた旦那だもんな)
幸せに決まってる、とまでは言わないけれど、どれだけこの日をローザが待ちわびていたのか、もう大人だからなんとなくエッジは想像出来る。例えここにカインがいないことに胸を痛めても、彼女はきっとセシルを選んだことを後悔しないだろう。
「素敵ね〜。とってもとってもとっても綺麗!」
「お前、語彙が少ないなあ」
「ごいってなあに?」
リディアは2度まばたきをして、ほんのちょっと首をかしげてエッジに聞いた。不思議そうにちょっとだけ唇を突き出して、本当にその言葉を初めて聞いたのだな、と誰もがわかるような表情だ。
「・・・なんでもねーよ。言った俺が阿呆だった。幻界にいりゃあ、そうもなるか」
エッジはそういいながらもリディアに笑顔を向けた。
婚礼の儀は招待客全員の前でバロン流の儀式が行われる。厳かに二人が永遠の誓いをたてるまでは、その場にいる人間は誰も言葉を発せずに、二人と、儀式を司る神父に注目を続けていた。
やがて二人の誓いが終わると、大広間の扉が開き、料理が一度にはこびこまれ、音楽が高らかに鳴る。
そのあまりの切替の早さに、なんだかエッジは可笑しくなって笑い出した。それをリディアがたしなめると、エッジはくっく、とまだ笑い声を止められないまま、それでも
「お前、いつ幻界に戻るんだ」
と聞き返す。実のところこの婚礼の儀は前夜祭のようなもので、バロン国民へのお披露目のパレードが明日に控えている。ここに集った人間はみなこの婚礼の儀に参加して、夜はバロン城に泊まり、明朝からのパレードを見る、というバロン国民が誰もがうらやむ日程で各地からやってきている。最初エッジは「なんで結婚式を夕方からやるんだよ」と思ったけれど、国民へのお披露目をする翌日が彼等にとってはメインの行事になるのだと知って、他国の慣習もちょっとは勉強しようかな、なんて気にもなった。
「うーん、明後日・・・?かな?」
「かな、ってのは」
「明日、ちょっと用事が出来るかもしれないの・・・ううん、そのつもりなんだけど。どうして?」
「どうしてって、お前・・・」
「おい!エッジ!」
突然シドがやってきて、エッジの目の前にどん、とグラスを置いた。それから、どこからもってきたのか無理矢理椅子をひっぱってきてエッジの傍らに座り込む。
扉からどうっと入ってきた女中達がグラスを置いて回っているというのに、そんなのはどうでもいい、とばかりにシドは持参してきた酒とグラスをあちこちの知り合いのところにおいては酒をついで回っているようだ。
「んっだよ、俺がリディアとなあっ・・・」
「まあ、飲め!」
シドは強引にエッジにグラスを渡した。
正直なところエッジはそういったもてなしは嫌いではなかったし、酒そのものも好きな方だ。にやりと笑って
「いっとくけど、俺は強いぜ?」
「強くて結構。あの二人の結婚だ、こんなにめでたい日はないぞ!めでたい日は、飲んで飲んで騒ぐに限る!」
そういいつつも、ちょっとだけシドが寂しそうなことをリディアはふと気付いた。
けれど、それはそうかもしれない。
セシルとローザはいつもと変わらないけれど、バロン国王と王妃という立場だから、やっと婚礼の儀が終わって宴が始まったかと思えば、各国の王族やら貴族やらからのご挨拶の列が早々に出来てしまっているのだ。
「エッジはいかなくていいの?」
「なーにが」
「みんな並んでるよ」
「けっ、馬鹿、なんで俺たちがあいつらに挨拶すんのに並ぶ必要があるんだよ。なあ、シド」
「まったくじゃ。やつらの方から挨拶にくるくらいでないといかん!」
「もお、おじちゃんったら・・・」
ヘンなところで気が合う二人の会話を聞いてリディアもくすりと笑顔を見せた。
そのとき、バロン城の女中がやってきて
「こちらをどうぞ」
「えっ」
リディアの前にも酒を注ぐためのグラスを置く。
「あのお、わたし、お酒、飲めないんです、何かほかに・・・」
「国王様から承っております。お嬢様はこちらのお飲み物をどうぞ」
そういって女中が注いでくれたものは、アルコール度が低い、それでもきちんとした果実酒だった。
セシル達と旅をしていた頃、リディアは全然酒類を口にすることを許されていなかった。もうすぐ最終決戦、という頃にようやくエッジがほんのちょっとだけリディアにも飲める酒を教えてくれたけれど、それだってエッジが選んでくれなければリディアにはわからない。
セシルやローザは、リディアが小さい頃を知っているから、余計にリディアを子供扱いして酒なんて飲ませてくれないと思っていた。
「きゃ、見て、エッジ、可愛い」
野イチゴの酒だな、とエッジはすぐに気付いた。薄い可愛らしいピンク色をしているのは、何か他の液体で割ったから薄まっているのだろう。
そこいらの果実酒より余程甘くて飲み口がいいものを選んでくれたに違いない。
「大人の仲間入り、って認めてもらったってわけだ」
「そうなのかなあ」
「あの固い男が、そうでなきゃお前に酒なんて出さないだろ」
いいながら、エッジは目を細めてリディアを見る。
以前なら、多分妬けた。
リディアはセシルを好きだったし、セシルはエッジが知らない、子供の頃のリディアを知っている。もちろんそのことだけではない。
こうやってセシルがリディアのことを気にかけていることも、リディアがそれに対してそっと喜びを噛み締めていることもエッジは気付いていたから。
けれど、今はなんだか違う。
彼はうまくは言葉に出来ないけれど・・・。
自分が大事に思っているこの少女が、他の人間も大事にされているのだ、と思うと、嬉しくて、そして余計に愛しく思えてしまう。
「わあ、甘くていい匂い。シドのおじちゃんが持ってるお酒とは全然違うよ」
「そんなもんは酒とはいわんわ!」
がはは、とシドは笑う。
「それでも、リディアにはぴったりじゃ。可愛い女の子はそういう酒が似合っておる」
「可愛い!?わ、嬉しいなあ・・・。そんなこと、言われたことないモン。おじちゃん大好きよ!」
リディアは赤くなりながらも素直に喜んだ。両手でそっとグラスをもって、ちょっとずつ味わっている。
「たまには若い女の子にモテるのもいいのう」
「かーっ!リディアの大好きはなあ・・・」
「なあに?エッジ」
子供が言ってるような、大安売りの大好きなんだぞ、なんてことを言っては、きっとリディアを傷つけるだろう。
エッジはそこまで言ったものの、もごもごと言葉を濁して、
「まあ、なんだな・・・その」
「・・・?・・・ヘンなの。なあに?」
そんなことを言っている間にセシルとローザに並ぶ列がもうすぐ途切れそうになってきた。シドはそれを目ざとくみつけて
「ようし、セシルにたーんと飲ませてやらないと!こりゃ、エッジも行くだろうがっ」
「へえへえ。ま、一応エブラーナ王子としては、な」
「二人とも、さっきは自分達からはいかないっていってたくせにい」
なんだかんだいって、二人供本当はセシル達と話したいのだ。
そんなこんなでエッジはシドに連れられてセシル達に挨拶にいってしまった。
本当はそこでリディアも一緒に行けばよかったのだろうけれど、リディアは婚礼の儀の前に二人に会っていたし、何よりも。
この豪華な大広間での宴の場で、人々が注目している新婚夫婦に挨拶にいくのがちょっとおじけづいてしまっていた。
(エッジは、王子様だもんね。シドのおじちゃんだって、このお城にいたんだし・・・)
あたりを見回しても豪華な料理、豪華な衣装、豪華な身分の人々。
ふとローザを見ると気付いてくれたようで、軽くリディアに手を振ってくれるのが見えた。リディアはそれへ手を振り返す。
幻界に一度戻ってしまって、またどうも人間界でのカンが狂ってしまった気も少しした。
こんなときにエッジが側にいてくれたらいいのに。
なんてことを思いながらセシル達に挨拶にいった「エブラーナ国王子エドワード・ジェラルダイン」をリディアは見つめていた。
それから、一人になったリディアに、ミシディアの双子や、ローザの母親が話し掛けてきてくれた。
なんとなく彼らと話をしているうちに時間が過ぎて・・・。
次にエッジとシドが戻って来たとき、彼らはすっかり出来上がっていたし、セシルももう「酒は勘弁」なんていうありさまになっていたのだが・・・生憎と国民には「幸せそうなお二人」が「つつがなく」式を終えて、人々に「心からの祝福をうけて」いた、ということしか伝えられてはいなかった・・・。

「エッジ〜、ねえ、聞いてる?」
「ああ、聞いてる。聞いてる」
「よろよろしながらそう言われも、信用できないよう」
エッジを支えながらリディアはバロン城のゲストルームの扉が並ぶ廊下を歩いていた。婚礼の儀はとっくに終わっていて、外はもう真っ暗だ。みな明日の朝からのパレードを見るために早々に休んでいるに違いない。エッジはリディアの肩に腕を回して、少しだけ体重をかけている。リディアは困ったようにエッジの背中に手を回して、もう片方の手をエッジの腰に添えて懸命に歩いていた。支えている、と思っているのはリディアだけで、エッジは少なからずとも「こんなときぐらい、いいだろう」なんて内心にやけながらリディアにくっついていたのだけれど・・・。
「わたし、明日・・・」
リディアがそう言いかけると同時に、エッジは歩みを止めてリディアに顔を近づけた。その息はもちろん酒くさかったけれど、そんなことよりもエッジが顔を近づけるなんてことが実は今までそんなになかったのだとリディアは気付いて内心ひどく動揺した。
本当に、この廊下に並ぶゲストルームに、ヤンやギルバートやミシディアの長老達がいるのだろうか?
そう思うと誰かに見られやしないか、と突然リディアは恥かしくなって頬を赤らめた。酒のせいではないはずなのに、なんだか自分の心臓の音が急に大きくなったようにすら思える。
「リディア」
「えっ?」
「お前、ちっとは、俺のこと、思い出したりしてくれてたか?」
「ええっ?」
そういいながら、リディアの肩に回していたエッジの腕にわずかに力が入った。
リディアはそれを感じて体を竦める。
少しだけ、恐い。でも、エッジの腕の力は必要以上には強くない。それが返って心地よいと思ってしまうのは、どうしてなんだろう?
「思い出してたに・・・決まってるでしょ」
「そうか・・・うん、それなら、いいんだ」
「エッジ?」
「全然、思い出してくれないんだったら・・・どうしようかと」
「エッジだって、わたしのこと・・・思い出してくれてたの?」
「あったりまえじゃねえか・・・悪い・・・迎えに行けなくて・・・」
「・・・」
予想外の言葉。リディアは目を丸くしてエッジを見た。迎えに?エッジが?自分を?ねえ、それって・・・とリディアが言葉にしようとした瞬間、エッジは彼らしくないうめき声をあげた。
「うー・・・」
「エッジ?」
「折角・・・二人きりにやっとなれたと思ったのによ・・・くっそ、クソジジイ、無理矢理飲ませやがって」
エッジはうめいてシドのことを毒づく。リディアの肩に回した腕をそっととって、とん、と壁に背中をつけた。まずい。エッジは普段あまりしない後悔を、これでもか、というほどしていた。めずらしく大量に飲み過ぎた酒のせいでついに睡魔が襲って来た。抗えるときと抗えないときがあるけれど、今日のこれは、抗えない睡魔だ、とエッジは判断する。
目の前に、リディアがいて。
そしてやっと二人きりになったというのに、なんていうことだ。
「悪い・・・続き、明日でいいか」
「つ、続きって?」
リディアは心配そうにエッジを見上げる。
「馬鹿。まだ、いうことも聞くこともあるってんだよ・・・ああ、そんな顔するな、ちょっと飲み過ぎただけだ・・・」
「大丈夫?何か、わたしに出来ることないかなあ」
「いや、大丈夫だ・・・・。すまねーな・・・でも、本当に・・・飲みすぎるぐらい、嬉しかったんだぜ」
「そっか」
「結婚式が、じゃないからな」
そのエッジの言葉の意味を正確に把握するまで、リディアには少しばかり時間がかかった。
「それは・・・そのー・・・わたしが、今日、結婚式のこと以外で、嬉しいって思っていることと・・・同じなのかな」
「だといいんだけど」
エッジは眠いのをこらえながら、リディアに笑いかけた。
ああ、エッジ、わたしのために無理してくれている・・・それがわかって、リディアはそれ以上あまりエッジに話し掛けずに休ませてあげよう、と素直に思えた。ああ、でも、と、伝えなければいけないことを思い出して、最後に
「エッジ、わたし、明日・・・」

「明日・・・なんて言ってたっけか・・・?」
リディアがいるはずの部屋をノックしても返事はない。
パレードを見にいったのだろう、とも思ったけれど、太陽の位置を考えるともう既にパレードは終わっている時間だ。
大事なところの記憶が欠けている。
その他のことは大抵覚えているのに、まったく自分ときたら迂闊すぎる・・・・エッジは舌打ちをして必死に思い出そうとしていた。

エッジ、わたし、明日

・・・にしたの。

「・・・まさか」

幻界に帰ることにしたの。

「ちょーっと待て待て待て待て、冷静に思い出せ・・・」
エッジは頭をかかえて扉の前で座り込んだ。情けないことこの上ない。
とりあえず女中にでも聞けば、リディアが部屋を引き払ったのかどうかがわかるに違いない・・・のんびり湯浴みなんてしている場合ではなかったのかもしれないな、なんてことを思いながらエッジは廊下を歩いていった。


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今回は長いですので、二回にわけてアップいたします。
だってエッジとリディアですから!!(燃えてる)
しかし笑ったのが、これをあかねさんとよもぎさんにおみせしたときに「王子全裸!?」という反応が一番最初に返ってきたことです。いや・・・結論からいうと、パンツはいてるんですが・・・フル●ンはいかんよ・・・。